最新記事

日本社会

教員数が多いはずの日本で、教員の「知り合い」が少ない理由

2022年2月24日(木)19時00分
舞田敏彦(教育社会学者)
教師たち

日本の教員の新規採用に占める教員養成学部の卒業者の割合は上昇傾向にある DGLimages/iStock.

<日本では教員の生活世界が狭く、多忙のためプライベートの人間関係が広がりにくいのかもしれない>

ISSP(国際社会調査プログラム)は毎年、特定の主題を立てて各国の国民の意識を調べている。2017年調査の主題は「人間関係」。凝った言い回しをすると「社会関係資本」だ。人間は他者と関係を結んで生きる社会的存在であるだけに、興味深い主題と言えるだろう。

最初のQ1では、いくつかの職業を提示して「あなたが有している人間関係の中に、当該の職業の人はいるか」と問うている。選択肢は「家族・親族にいる」「親友に入る」「知人にいる」「いない」の4つだ。例えば、教員(school teacher)への親密度を国ごとに比べると面白い。

日本には約146万人の教員がおり、人口(1億2500万人)に対する比率にすると83人に1人だ。国別の数値はとれないが、人口当たりの教員数は多い部類に入るだろう。その教員は国民にとって、どれほど身近な存在であるのか。<図1>は、日本を含む主要6カ国の回答分布をグラフにしたものだ。

DATA220224-CHART01.jpg

アメリカやフランスでは4割近くの国民が、家族ないしは親族に教員がいると答えている。家族や親族は運命的な縁だが、ここまで多いことには驚く。人口当たりの教員が多いのか、教員(school teacher)の意味するところが広いのか、可能性はいろいろ考えられる。日本はどうかというと、赤色の「いない」の割合が高い。自分が有している人間関係の中に教員はいないという人が7割近くを占め、他国と比べて際立って高い。

国民の就学率が高い日本で教員の相対数が少ないとは考えにくく、教員の生活世界が狭い、ということなのかもしれない。多忙でプライベートの人間関係が広がりにくい、教員集団の同質性(閉鎖性)が強い等、理由は色々考えられる。日本の教員は民間企業出身者比率が低く、同業婚の率も高い。新規採用者に占める教員養成学部卒業者の割合も上昇傾向で、出身畑の多様性も低下しつつある。

社会に人材を送り出す学校の教員は、社会を知っていなければならない。フランスの社会学者デュルケムは「教員は社会の代弁者である」と言っているが(『教育と社会学』)、それだけに社会との豊かな関係を取り結んでおかなければならない。教員の働き方改革が必要なゆえんは、こういう所にもある。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

独クリスマス市襲撃、容疑者に反イスラム言動 難民対

ワールド

シリア暫定政府、国防相に元反体制派司令官を任命 外

ワールド

アングル:肥満症治療薬、他の疾患治療の契機に 米で

ビジネス

日鉄、ホワイトハウスが「不当な影響力」と米当局に書
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:アサド政権崩壊
特集:アサド政権崩壊
2024年12月24日号(12/17発売)

アサドの独裁国家があっけなく瓦解。新体制のシリアを世界は楽観視できるのか

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が明らかにした現実
  • 2
    おやつをやめずに食生活を改善できる?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    【駐日ジョージア大使・特別寄稿】ジョージアでは今、何が起きているのか?...伝えておきたい2つのこと
  • 4
    ロシア西部「弾薬庫」への攻撃で起きたのは、戦争が…
  • 5
    「たったの10分間でもいい」ランニングをムリなく継続…
  • 6
    映画界に「究極のシナモンロール男」現る...お疲れモ…
  • 7
    村上春樹、「ぼく」の自分探しの旅は終着点に到達し…
  • 8
    ロシア軍は戦死した北朝鮮兵の「顔を焼いている」──…
  • 9
    「私が主役!」と、他人を見下すような態度に批判殺…
  • 10
    【クイズ】世界で1番「汚い観光地」はどこ?
  • 1
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が明らかにした現実
  • 2
    ロシア軍は戦死した北朝鮮兵の「顔を焼いている」──ゼレンスキー
  • 3
    村上春樹、「ぼく」の自分探しの旅は終着点に到達した...ここまで来るのに40年以上の歳月を要した
  • 4
    おやつをやめずに食生活を改善できる?...和田秀樹医…
  • 5
    女性クリエイター「1日に100人と寝る」チャレンジが…
  • 6
    コーヒーを飲むと腸内細菌が育つ...なにを飲み食いす…
  • 7
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命を…
  • 8
    ウクライナ「ATACMS」攻撃を受けたロシア国内の航空…
  • 9
    【クイズ】アメリカにとって最大の貿易相手はどこの…
  • 10
    「どんなゲームよりも熾烈」...ロシアの火炎放射器「…
  • 1
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 2
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が明らかにした現実
  • 3
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 4
    ロシア兵「そそくさとシリア脱出」...ロシアのプレゼ…
  • 5
    半年で約486万人の旅人「遊女の数は1000人」にも達し…
  • 6
    ロシア軍は戦死した北朝鮮兵の「顔を焼いている」──…
  • 7
    「炭水化物の制限」は健康に問題ないですか?...和田…
  • 8
    ミサイル落下、大爆発の衝撃シーン...ロシアの自走式…
  • 9
    コーヒーを飲むと腸内細菌が育つ...なにを飲み食いす…
  • 10
    2年半の捕虜生活を終えたウクライナ兵を待っていた、…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中