最新記事

中国

中国の闇──鎖で拘束された女性の衝撃映像、当局の説明は二転三転、人身売買で詳細調査へ 

2022年2月22日(火)18時00分
青葉やまと

鎖でつながれた女性の衝撃の動画から中国の暗部が垣間見えた...... NBC-YouTube

<粗末な小屋に鎖でつながれた女性の動画が、19億回再生される関心事に。虚偽の説明を繰り返していた自治体だが、世論の圧力を受け人身売買を認めた。省レベルで専任の調査チームが発足している>

中国の民家敷地に設けられた安普請の小屋で、鎖に繋がれたまま凍える女性が発見された。活動家が収めた動画が1月18日、中国版TikTokのドウインに投稿されている。その衝撃的な内容から瞬く間に拡散し、複数の動画プラットフォームに転載された。計19億回の再生を記録している。

自治体と現地捜査当局は当初、まるでオリンピック期間中の不祥事を覆い隠すかのように、人身売買説を否定。その後も説明は二転三転していたが、2月10日になると人身売買を認め、夫を含む3名の身柄を拘束した。江蘇省当局は動画公開から1ヶ月となるに2月18日までに、詳細な調査のためのタスクフォースを政府と共同で設置した。

一連の経緯を報じた香港紙などを通じ、中国地方部では人身売買が未だ活発に行われている現状が浮き彫りとなった。現地では90年代まで女性や児童などの購入が合法であり、現在でも違法な植物の取引よりも処分が軽い。本稿では以下、問題となった動画内容に加え、自治体によって繰り返された虚偽の発表、および人身売買の現状について伝える。

19億再生を記録したショッキングな映像

問題の動画は、貧困者の支援活動を行なっている女性活動家によって撮影された。動画冒頭では、粗末な造りの小屋をカメラが外側から捉えている。小屋はドアもない簡素な造りで、暗い室内が外から丸見えとなっており、中にはかすかな人影がうかがえる。

内部に足を踏み入れたカメラが映し出したのは、薄着で立ち尽くす女性の姿だ。首輪をかけられ、鎖で壁につながれている。服装はトレーナーとレギンスのようなもので、防寒着としては明らかに不十分だ。女性は両手両脚をすり合わせ、懸命に寒さに耐えている。

トレーナーは薄汚れており、髪も整っているとは言い難い。身を案じた撮影者が近づくが、女性は散乱した室内で支離滅裂なことばを呟くばかりだ。その後の調査により、女性は精神疾患を患っていることが判明した。

動画は中国国外でも関心を集めた。米NBCが動画の一部を取り上げると、ある視聴者は「このような悪行を言い表す言葉がみつからない。一人の女性がこんな扱いを受けていたのをみるのは衝撃的で、胸が張り裂けそうだ」と反応した。

Viral video of woman chained by neck in China sparks outrage


別の視聴者は「残酷だが......驚きはしない。人道的であったり、他者を人間らしく扱ったりといった行為は、中国共産党の優先度リストのなかでさほど上位だったためしがない」とのコメントを残している。

二転三転

動画公開を受け、地元自治体は迅速な火消しを試みた。人身売買との観測が拡散するなか、噂を封じようとした格好だ。しかし、人身売買の否定ありきの矛盾だらけの筋書きとなっており、説明が二転三転したことで信頼を失墜させた。

動画が公開されたその日のうちに地元当局は、女性が夫と合法的に結婚していると発表した。1998年に結婚し、8人の子をもうけたとの説明だ。姓は楊といい、激しい発作を起こしたため夫によって鎖でつながれたのだという。

しかし、眼光鋭い数万ものネットユーザーたち欺くことはできなかったようだ。当局の発表に対しネットでは、状況の不自然さを指摘する声が相次いだ。

2016年まで一人っ子政策が敷かれていた中国において、なぜ8人も産むことができたのだろうか? 地方では人身売買が見て見ぬふりをされることも多いが、今回の件がそうでない証拠はあるのだろうか?

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

貿易分断化、世界経済の生産に「相当な」損失=ECB

ワールド

イスラエル首相らに逮捕状、ICC ガザで戦争犯罪容

ビジネス

米中古住宅販売、10月は3.4%増の396万戸 

ビジネス

米新規失業保険申請は6000件減の21.3万件、4
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 2
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱が抜け落ちたサービスの行く末は?
  • 3
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 4
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 5
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 6
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 7
    ウクライナ軍、ロシア領内の兵器庫攻撃に「ATACMSを…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    若者を追い込む少子化社会、日本・韓国で強まる閉塞感
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 4
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 7
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 8
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 9
    メーガン妃が「輝きを失った瞬間」が話題に...その時…
  • 10
    中国富裕層の日本移住が増える訳......日本の医療制…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 9
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 10
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中