最新記事

ウクライナ危機

プーチンがウクライナに軍派遣命令 演説で歪んだ歴史認識と怨みを吐露

Putin Orders Russian Troops Into Ukraine’s Breakaway Provinces

2022年2月22日(火)18時17分
ロビー・グラマー/ジャック・デッチ/エイミー・マッキノン(フォーリン・ポリシー誌記者)

ウクライナ全土侵攻の始まりか?(写真は2月21日、軍派遣命令に先立ち、親ロ派共和国を承認する署名をするところ)Sputnik/Alexey Nikolsky/Kremlin/REUTERS

<西側のあらゆる外交努力を反故にしかねない命令を下し、ウクライナの独立さえ否定する演説をしたプーチン。バイデン政権が見守る最後の一線は、ウクライナ東部の親ロ派地域より奥へ、ロシア軍を侵攻させるのかどうかだ>

ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は2月21日、陰謀論や嘘を織り交ぜた演説を国民向けに行い、親ロシア派が実効支配するウクライナ東部ドンバス地方の一部地域の独立を承認すると発表。数時間後には、平和維持の名目でウクライナ東部にロシア軍部隊を派遣する命令を出した。

この命令は、国際的にウクライナの領土と認められている土地に、ロシア軍の拠点を築くことを認めるものだ。このわずか1時間前には、プーチンによる親ロシア派勢力の独立承認を受けてジョー・バイデン米大統領がウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領と電話会談を行い、ウクライナの領土の一体性を維持することを確認したばかりだった。

プーチンは、アメリカとNATOに対する長年の不満を並べ立てた演説の中で、ウクライナ東部の親ロシア派が名乗る「ドネツク人民共和国」と「ルガンスク人民共和国」を承認すると決定した。ロシアがウクライナ国境付近に20万人近い部隊を送り込んだことで発生している欧米諸国との緊張をますます悪化させる決定だ。

ウクライナの複数の当局者は、この演説に続いて国境付近に部隊派遣の命令を出したプーチンのやり方は、2008年にロシアがジョージアに軍事侵攻を行った(南オセチア紛争)時と非常によく似ていると指摘した。

西側諸国は「戦争を承認する演説」と非難

プーチンの演説と軍派遣命令は、危機打開に向けた外交的努力に終止符を打つものとなりそうだ。西側諸国は、ロシアによるウクライナ東部地域の独立承認は、2015年に交わされた和平協定を根底から覆すものになると警告してきた。「ミンスク合意」として知られるこの協定は、ウクライナ軍と親ロシア派の分離独立派の紛争解決に向けた道筋を示し、同地域に対するウクライナの主権を回復させる内容だ。

さらなる不吉な予兆として、ブルームバーグは21日、米政府が現地に残っていた在ウクライナ大使館の外交官たちをポーランドに移したと報じた。

西側諸国の政府高官らは、プーチンの演説とウクライナ東部の独立承認について、明らかな国際法違反だと強く非難。だが今回の動きを米諜報機関の報告書が予測してきたような、ウクライナに対する全面的な侵攻と称することは控えた。米政府のある高官は記者団に対し、プーチンの演説は「ウクライナの主権と独立という概念そのものに対する攻撃」だと述べた。「国民に向けて行われたこの演説は、戦争を承認するものだ」

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、米軍制服組トップ解任 指導部の大規模刷

ワールド

アングル:性的少数者がおびえるドイツ議会選、極右台

ワールド

アングル:高評価なのに「仕事できない」と解雇、米D

ビジネス

米国株式市場=3指数大幅下落、さえない経済指標で売
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    メーガン妃が「アイデンティティ危機」に直面...「必死すぎる」「迷走中」
  • 4
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 5
    深夜の防犯カメラ写真に「幽霊の姿が!」と話題に...…
  • 6
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 7
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 8
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 9
    トランプが「マスクに主役を奪われて怒っている」...…
  • 10
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 4
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 9
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 10
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
  • 10
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中