最新記事

心理学

ぞくぞくする快感「ASMR」の研究が進む...ネガティブ思考の人の「不安軽減」効果も

The ASMR Brain Phenomenon

2022年2月17日(木)17時14分
ジュリア・ポエリオ(英エセックス大学講師)
ASMR

特定の聴覚的・視覚的刺激が引き起こすASMRの研究が進む YULIA LISITSA/SHUTTERSTOCK

<リラックス作用があるとして、動画サイトでも人気のASMR。体感できるのは一部の人だけとされるが......>

マッサージなど和む動作の中でのささやき声や何かを軽くたたく音――。

頭や首から全身に広がるぞくぞくするような快感と言われるASMR(自律感覚絶頂反応)は、幅広い種類の動画や聴覚的誘因によって引き起こされる。何がきっかけになるかはさまざまだが、今や世界各地の大勢の人にとって、ASMRはリラクゼーションや睡眠導入、ストレス軽減の頼れる友だ。

学術的関心が高まっているなか、未解決の問いは多い。ASMRを覚える人と、覚えない人がいるのはなぜか。治療の手段として検討するに当たっては、ASMRと性格的特徴の関連性を理解することが手掛かりになるのか。

登場し始めた研究文献が示すところでは、ASMRを感じる人は落ち込んだり、自己不信を抱いたりしがちなニューロティシズム(神経症傾向)がより強い。性格的特徴の1つであるニューロティシズムは、不安といったネガティブな心の状態に陥りやすい傾向とも結び付く。

ニューロティシズムとASMR体感者の不安の関連や、不安へのASMR動画視聴の効果を調べた研究はまだごく少ない。こうした点をさらに探るため、筆者らは新たな研究を行った。

「感じない人」にも効果はある

研究に参加したのは、ASMR体感者36人と非体感者28人だ。ASMRの一般的誘因を組み合わせた5分間の動画を、全員に視聴してもらった。

参加者は視聴前にニューロティシズム、特性不安(継続的不安を感じやすい傾向)や状態不安(その瞬間の不安)の度合いを評価する質問票に回答。視聴後、改めて状態不安に関する質問に答えた。

ASMR体感者は非体感者と比べて、ニューロティシズムと特性不安のレベルが大幅に高かった。これは、性格的特徴とASMR体感能力の関連を示唆している。視聴前の状態不安のスコアもASMR体感者のほうが高くその度合いは視聴後に大きく低下した。

対照的に、非体感者の状態不安は変化しなかった。ASMR動画は不安を緩和するが、効果はASMRを覚える人に限られるということだ。

だが別の視点からデータを見ると、より高度のニューロティシズム・不安傾向とASMR動画が不安に及ぼすプラスの作用は、ASMR体感の有無にかかわらず、関連していることが分かった。

こうした結果は、治療手段としてASMRを考える際には、個人的性格が重要になることを浮き彫りにする。さらに、ASMR動画の効果は、特有の刺激を感じない人でも得られることを示している。

今回の研究は比較的小規模にすぎず、被験者らがおそらく、既にASMRに肯定的だった点も無視できない。ASMRになじみが薄い人を対象とする後続研究が重要だ。

一方、脳機能イメージングに基づく最近の研究で判明したことも増えている。

脳波(EEG)を用いた研究では、マインドフルネス瞑想などのリラクゼーションと関連する脳の電気活動が、ASMR刺激に対して活発化していた。被験者が精神的に疲弊するタスクを行っている際も、結果は同じだった。

ASMRは(日常的活動の最中でも)リラックス状態と関連する脳活動の変化を導くことを、これらの研究は示している。脳機能イメージングによる研究が増えれば、ASMRの不安軽減効果の仕組みがさらに見えてくるはずだ。

The Conversation

Giulia Poerio, Associate lecturer, University of Essex

This article is republished from The Conversation under a Creative Commons license. Read the original article.

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ロが電力インフラに大規模攻撃、「非人道的」とゼレン

ワールド

カザフスタンで旅客機墜落、67人搭乗 32人生存

ワールド

日中外相が会談、安保・経済対話開催などで一致

ビジネス

政府経済見通し24年度0.4%に下げ、輸出下振れ 
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2025
特集:ISSUES 2025
2024年12月31日/2025年1月 7日号(12/24発売)

トランプ2.0/中東&ウクライナ戦争/米経済/中国経済/AI......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 2
    ウクライナの逆襲!国境から1000キロ以上離れたロシアの都市カザンを自爆攻撃
  • 3
    「腹の底から笑った!」ママの「アダルト」なクリスマストイが「誇り高く立っている」と話題
  • 4
    9割が生活保護...日雇い労働者の街ではなくなった山…
  • 5
    「自由に生きたかった」アルミ缶を売り、生計を立て…
  • 6
    強烈な炎を吐くウクライナ「新型ドローン兵器」、ロ…
  • 7
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 8
    ウクライナ前線での試験運用にも成功、戦争を変える…
  • 9
    「オメガ3脂肪酸」と「葉物野菜」で腸内環境を改善..…
  • 10
    コーヒーを飲むと腸内細菌が育つ...なにを飲み食いす…
  • 1
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 2
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が明らかにした現実
  • 3
    ロシア軍は戦死した北朝鮮兵の「顔を焼いている」──ゼレンスキー
  • 4
    おやつをやめずに食生活を改善できる?...和田秀樹医…
  • 5
    村上春樹、「ぼく」の自分探しの旅は終着点に到達し…
  • 6
    ウクライナの逆襲!国境から1000キロ以上離れたロシ…
  • 7
    「腹の底から笑った!」ママの「アダルト」なクリス…
  • 8
    9割が生活保護...日雇い労働者の街ではなくなった山…
  • 9
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 10
    【駐日ジョージア大使・特別寄稿】ジョージアでは今、…
  • 1
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 2
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が明らかにした現実
  • 3
    ロシア兵「そそくさとシリア脱出」...ロシアのプレゼンス維持はもはや困難か?
  • 4
    半年で約486万人の旅人「遊女の数は1000人」にも達し…
  • 5
    ロシア軍は戦死した北朝鮮兵の「顔を焼いている」──…
  • 6
    「炭水化物の制限」は健康に問題ないですか?...和田…
  • 7
    ミサイル落下、大爆発の衝撃シーン...ロシアの自走式…
  • 8
    コーヒーを飲むと腸内細菌が育つ...なにを飲み食いす…
  • 9
    2年半の捕虜生活を終えたウクライナ兵を待っていた、…
  • 10
    村上春樹、「ぼく」の自分探しの旅は終着点に到達し…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中