最新記事

監視社会

公式アプリの検閲機能など序の口、「北京五輪」選手は通信も移動も「ぜんぶ丸裸」

Olympic Surveillance

2022年2月2日(水)17時28分
ニコラス・エフティミアデス(米スコウクロフト戦略・安全保障センター上級フェロー)

中国側は全ての選手に、中国に出発する前に「MY2022」というアプリをスマホにインストールして、渡航歴を登録したり健康管理に使うことを求めている。しかしトロント大学の研究チーム「シチズン・ラボ」は、このアプリには暗号化とセキュリティーに重大な欠陥があると報告。

さらに、検閲対象となる2442のキーワードのリストが組み込まれていることも突き止めた。セキュリティーの欠陥は、当局がスマホにアクセスできるよう故意につくられたものとみられる。

選手村に到着したアスリートは、いくつもの安全対策を守るよう求められる。大々的な対策は、選手を新型コロナから守るためだという説明が仰々しく行われるだろう。選手の間に感染が広がれば、中国の面目は丸つぶれだ。選手たちは、行動範囲も会う人も厳しく制限されることになる。

中国側によれば、選手は競技会場と宿泊先でインターネットを利用できる。「グレートファイアウォール」と呼ばれる中国のネット検閲システムが解除され、国内では閲覧が禁止されているサイト(フェイスブックやツイッターをはじめとするソーシャルメディアや外国のニュースサイトなど)へのアクセスも認められるはずだ。

世界トップクラスの顔認証・AI技術

だがこのアクセスは、ほぼ確実に監視される。華為技術(ファーウェイ・テクノロジーズ)やiFLYTEK(アイフライテック)など通信・ネットワークのサポートを提供している協賛企業は、中国公安省と緊密に連携している。この2社は共にアメリカの輸出規制リストに載っており、ファーウェイはアメリカで産業スパイの罪に問われている。

ノートパソコンを使った通信は全て監視され、ほぼリアルタイムで中国の公安当局と情報共有される。中国でネットにアクセスするには政府の認可を得たバーチャル・プライベートネットワーク(VPN)プロバイダーの使用が義務付けられており、それ以外のプロバイダーを使えば刑事訴追される恐れもある。

選手たちの行動は、スマホの追跡システム、会場のビデオ監視システムや顔認証技術を使って監視される。中国の顔認証技術やそれに関連する人工知能(AI)技術は、世界でもトップクラスだ。

五輪では、選手が競技を終えた後にどんちゃん騒ぎをすることも少なくない。選手たちの大半は、まだ若い。大きな重圧から解放されれば、息抜きもしたくなる。だがプライベートでの言動も、中国側に監視・記録されている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ミャンマー地震の死者1000人超に、タイの崩壊ビル

ビジネス

中国・EUの通商トップが会談、公平な競争条件を協議

ワールド

焦点:大混乱に陥る米国の漁業、トランプ政権が割当量

ワールド

トランプ氏、相互関税巡り交渉用意 医薬品への関税も
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:まだ世界が知らない 小さなSDGs
特集:まだ世界が知らない 小さなSDGs
2025年4月 1日号(3/25発売)

トランプの「逆風」をはね返す企業の努力が地球を救う

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジェールからも追放される中国人
  • 3
    突然の痛風、原因は「贅沢」とは無縁の生活だった...スポーツ好きの48歳カメラマンが体験した尿酸値との格闘
  • 4
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 5
    なぜ「猛毒の魚」を大量に...アメリカ先住民がトゲの…
  • 6
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 7
    なぜANAは、手荷物カウンターの待ち時間を最大50分か…
  • 8
    最古の記録が大幅更新? アルファベットの起源に驚…
  • 9
    不屈のウクライナ、失ったクルスクの代わりにベルゴ…
  • 10
    アルコール依存症を克服して「人生がカラフルなこと…
  • 1
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 2
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き詰った「時代遅れ企業」の行く末は?【アニメで解説】
  • 3
    「低炭水化物ダイエット」で豆類はNG...体重が増えない「よい炭水化物」とは?
  • 4
    「テスラ離れ」止まらず...「放火」続発のなか、手放…
  • 5
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 6
    【独占】テスラ株急落で大口投資家が本誌に激白「取…
  • 7
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 8
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大…
  • 9
    大谷登場でざわつく報道陣...山本由伸の会見で大谷翔…
  • 10
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 3
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 4
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛…
  • 5
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 6
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 7
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 8
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 9
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 10
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中