IS指導者「殺害」は無意味だった? 軍事力によるテロ組織「壊滅」の確率は7%
Are We Winning Yet?
ISの指導者アブイブラヒム・ハシミが隠れていたシリア北西部の住居 U.S. DEPARTMENT OF DEFENSE-REUTERS
<米軍の急襲作戦で「イスラム国」指導者アブイブラヒム・ハシミが死亡。それでもイスラム過激派は不死鳥のようによみがえり、テロとの戦いには終りが見えない>
アメリカは今、20年ぶりに戦争をしていない。われわれは新しい時代に入ったのだ──。ジョー・バイデン米大統領がそう宣言したのは、昨年9月の国連総会でのこと。直前に、米軍がアフガニスタンから完全撤収したことをアピールしたかったのだろう。
だがバイデンは2月3日、前夜に米軍の特殊部隊が、シリア北西部で過激派組織「イスラム国」(IS)の指導者アブイブラヒム・ハシミの住居を急襲し、ハシミが自爆死したことを発表した。
アメリカが世界中で繰り広げるテロとの戦いは、全く終わっていないのだ。米軍の兵士やアドバイザーは、今も世界数十カ国に派遣されていて、すぐにも戦闘をできる状態にある(そしてしばしば実際に戦闘を交えている)。
ハシミが住むアパートを急襲した特殊部隊は、900人規模のシリア駐留米軍の一部だ。イラクにも約2500人の米軍地上部隊がいる。バイデンは戦争権限法に基づき議会に提出した報告書で、アメリカはテロとの戦いのために、世界各地の「複数の場所」に、「戦闘装備をした部隊を派遣している」と記載している。
ブラウン大学ワトソン国際問題研究所のステファニー・サベル上級研究員がまとめた報告書によると、米軍は2018〜20年に世界85カ国でテロとの戦いを展開してきた。
戦い方はいろいろだ。79カ国では現地軍の訓練を行い、41カ国では単独または現地軍と合同で、軍事演習を行った。7カ国では空爆またはドローンで爆撃をした。そして12カ国では、実際の戦闘に従事した(その後のアフガニスタン撤収で、現在は11カ国)。
軍事力の効果は限定的
だが、こうした活動が、テロ活動を阻止するかテロ組織を破壊する上で、どのくらい有効なのかは、十分検証されてこなかった。少なくとも、08年のランド研究所の報告書を読む限り、「ほとんどの場合、さほど有効ではない」が答えのようだ。
同研究所のセス・ジョーンズとマーチン・リビッキは、1968年から2006年まで648のテロ組織を調べた結果を、「テロ組織の終わり方」という報告書にまとめた。それによると、軍事力によってテロ組織が終焉を迎えたケースは7%にすぎなかった。
むしろ40%の組織は、警察と情報機関の協力によって息の根を止められた。43%は、政治的不満が解決すると平和的な政治組織に衣替えをするか解散し、テロ組織の10%が目標を達成して解散した。ブラウン大学のサベルの研究でも、同様の結果が得られたという。