最新記事

シリア

IS指導者「殺害」は無意味だった? 軍事力によるテロ組織「壊滅」の確率は7%

Are We Winning Yet?

2022年2月9日(水)17時16分
フレッド・カプラン(スレート誌コラムニスト)

220215p28_wwy02.jpg

2月2日に米軍の特殊部隊の急襲を受け、ハシミは自爆死した。米軍は自爆した場合の建物への影響も計算していたとされる MOHAMED AL-DAHER-REUTERS

ジョーンズとリビッキによれば、軍事力が最も効果を発揮するのは、「大規模で、重武装して、極めて組織化された」反政府武装勢力が相手の場合であり、このような組織に対峙するとき、軍事力は「必須の要素」となる。

だが、ほとんどのテロ組織に対して、「軍事力はあまりにも精度が乏しい」と、2人は指摘する。「テロ組織に対して軍事力を行使すると」、民間人を巻き添えにしやすく、むしろアメリカが支援する政府に対して住民が反感を抱き、テロ組織への参加を促すことが多いというのだ。

また、ジョーンズとリビッキは、「宗教的テロ組織は、撲滅に一段と長い時間がかかる」とも指摘している。実際、報告書の作成から10年以上がたち、そこで取り上げられたテロ組織の62%は消滅したが、宗教的テロ組織に限定すると、その数字は32%に低下する(ただし明らかな勝利を収めた組織は1つもない)。

今回のハシミ急襲作戦のように、最高指導者を殺害する作戦の持続的なインパクトも不透明だ。シンクタンクのニューアメリカの専門家で、かつてウサマ・ビンラディンのインタビューに成功したピーター・バーゲンは、テロ組織のトップ殺害は「一定の効果はあるが、一般に喧伝されるほどではない」と語る。

アフガニスタンの不吉な先例

確かにアルカイダは、強大なパワーと神秘性を兼ね備えたビンラディンが米軍に殺害されて以来、かつての勢いを取り戻すことはなかった。だが、こうした組織は、総じて「新しい指導者を指名して先に進む」とバーゲンは言う。

アフガニスタンのイスラム主義組織タリバンも、ムハマド・オマルとアクタル・ムハマド・マンスールというカリスマ的指導者の死亡後も崩壊することはなかった。それどころか、今やアフガニスタン全土を支配している。最高指導者を殺害する作戦には、「一定の効果はあるが、状況をがらりと変えるほどではない」と、バーゲンは語る。

ハシミの死も注目すべき出来事とはいえ、ISを「廃業」に追い込む可能性は乏しい。そもそもハシミは2年前に最高指導者になったものの、組織内でも知名度は低く、今回急襲された建物を出ることさえめったになかった。

20年にウェストポイント陸軍士官学校のテロ対策センター(CTC)が作成した報告書によると、ISの一部メンバーはネットでのやりとりでハシミが最高指導者になったことを批判していた。「姿を見せない名前だけのカリフ」とか「無名の凡人」と揶揄する書き込みもあった。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

焦点:大混乱に陥る米国の漁業、トランプ政権が割当量

ワールド

トランプ氏、相互関税巡り交渉用意 医薬品への関税も

ワールド

米加首脳が電話会談、トランプ氏「生産的」 カーニー

ワールド

鉱物協定巡る米の要求に変化、判断は時期尚早=ゼレン
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:まだ世界が知らない 小さなSDGs
特集:まだ世界が知らない 小さなSDGs
2025年4月 1日号(3/25発売)

トランプの「逆風」をはね返す企業の努力が地球を救う

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジェールからも追放される中国人
  • 3
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中国・河南省で見つかった「異常な」埋葬文化
  • 4
    なぜ「猛毒の魚」を大量に...アメリカ先住民がトゲの…
  • 5
    なぜANAは、手荷物カウンターの待ち時間を最大50分か…
  • 6
    不屈のウクライナ、失ったクルスクの代わりにベルゴ…
  • 7
    突然の痛風、原因は「贅沢」とは無縁の生活だった...…
  • 8
    アルコール依存症を克服して「人生がカラフルなこと…
  • 9
    最悪失明...目の健康を脅かす「2型糖尿病」が若い世…
  • 10
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 1
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 2
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き詰った「時代遅れ企業」の行く末は?【アニメで解説】
  • 3
    「低炭水化物ダイエット」で豆類はNG...体重が増えない「よい炭水化物」とは?
  • 4
    「テスラ離れ」止まらず...「放火」続発のなか、手放…
  • 5
    【独占】テスラ株急落で大口投資家が本誌に激白「取…
  • 6
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 7
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 9
    大谷登場でざわつく報道陣...山本由伸の会見で大谷翔…
  • 10
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 3
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 4
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛…
  • 5
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 6
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 7
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 8
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 9
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 10
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中