IS指導者「殺害」は無意味だった? 軍事力によるテロ組織「壊滅」の確率は7%
Are We Winning Yet?
ジョーンズとリビッキによれば、軍事力が最も効果を発揮するのは、「大規模で、重武装して、極めて組織化された」反政府武装勢力が相手の場合であり、このような組織に対峙するとき、軍事力は「必須の要素」となる。
だが、ほとんどのテロ組織に対して、「軍事力はあまりにも精度が乏しい」と、2人は指摘する。「テロ組織に対して軍事力を行使すると」、民間人を巻き添えにしやすく、むしろアメリカが支援する政府に対して住民が反感を抱き、テロ組織への参加を促すことが多いというのだ。
また、ジョーンズとリビッキは、「宗教的テロ組織は、撲滅に一段と長い時間がかかる」とも指摘している。実際、報告書の作成から10年以上がたち、そこで取り上げられたテロ組織の62%は消滅したが、宗教的テロ組織に限定すると、その数字は32%に低下する(ただし明らかな勝利を収めた組織は1つもない)。
今回のハシミ急襲作戦のように、最高指導者を殺害する作戦の持続的なインパクトも不透明だ。シンクタンクのニューアメリカの専門家で、かつてウサマ・ビンラディンのインタビューに成功したピーター・バーゲンは、テロ組織のトップ殺害は「一定の効果はあるが、一般に喧伝されるほどではない」と語る。
アフガニスタンの不吉な先例
確かにアルカイダは、強大なパワーと神秘性を兼ね備えたビンラディンが米軍に殺害されて以来、かつての勢いを取り戻すことはなかった。だが、こうした組織は、総じて「新しい指導者を指名して先に進む」とバーゲンは言う。
アフガニスタンのイスラム主義組織タリバンも、ムハマド・オマルとアクタル・ムハマド・マンスールというカリスマ的指導者の死亡後も崩壊することはなかった。それどころか、今やアフガニスタン全土を支配している。最高指導者を殺害する作戦には、「一定の効果はあるが、状況をがらりと変えるほどではない」と、バーゲンは語る。
ハシミの死も注目すべき出来事とはいえ、ISを「廃業」に追い込む可能性は乏しい。そもそもハシミは2年前に最高指導者になったものの、組織内でも知名度は低く、今回急襲された建物を出ることさえめったになかった。
20年にウェストポイント陸軍士官学校のテロ対策センター(CTC)が作成した報告書によると、ISの一部メンバーはネットでのやりとりでハシミが最高指導者になったことを批判していた。「姿を見せない名前だけのカリフ」とか「無名の凡人」と揶揄する書き込みもあった。