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最後のエアバスA380、空に残したメッセージ

2022年2月3日(木)13時45分
青葉やまと

最終のテストフライトで、人知れず大空にハート型を描くコースを取った FlightRadar24

<超大型のボディを誇り、ユニークな総二階建て機としても愛されるエアバスA380。その最後の生産機が、レーダー上にささやかな演出を残した>

欧州エアバス社から2005年にデビューしたスーバージャンボ・ジェット「A380」。商用第一号機の登場からわずか16年目の昨年、惜しまれつつもその生産の歴史に幕を下ろした。最後の製造分となる機体が納品前のテスト飛行に臨み、この際、ドイツ上空に目にみえないメッセージを残したことで話題を振りまいた。

同機は昨年末、エアバス社のドイツ・ハンブルグ工場にて、地上での検査と塗装を終えた。続く最終のテストフライトの際、人知れず大空にハート型を描くコースを取った。航空機の航跡を確認できるウェブサイト『FlightRadar24』上には、A380の描いたルートがはっきりと残された。

スモークを用いる航空ショーの演出とは異なり、肉眼ではなくレーダーのみで確認可能となっている。それだけに粋な試みとして話題となり、海外のニュースサイトなどで広く報じられている。技術解説サイト『インタレスティング・エニジニアリング』は、「この巨大な航空機のファンたちの心に残ることだろう」と報じた。

同機はすでにこの飛行を終え、ドバイに本社を構えるエミレーツ航空に向けて納機のため飛び立った。ニュージーランド・ヘラルド紙によると、工場のあるドイツからアラブ首長国連邦へと直接南下せず、一度北上してロンドン上空をかすめるルートを取っている。事務処理上、イギリスの空域に一旦進入する必要あることから、このような遠回りの航路になったという。


エミレーツはA380の熱心な支持者として知られ、これまで生産されたA380のほぼ半数が同社に納品されている。同社は今後、ドバイとニュージーランド・オークランド間の直行便を再開する予定となっており、17時間に及ぶそのフライトにA380を就航させたい意向だ。

輸送能力向上を目指したスーパージャンボ

エアバスA380は2005年、輸送能力においてボーイング747を凌ぐスーパージャンボ・ジェットとして華々しくデビューした。総2階建て・ワイドボディの4発機だ。

800席の輸送能力を目指して開発され、空路の混雑緩和と運用コスト低減をねらっている。しかし、その過程は順調ではなかった。最新技術を導入した結果、電気系統は複雑を極め、1機あたりに収容されるケーブルの総延長は480kmを超えた。初期の生産遅延の一因ともなり、エアバス社はワイヤーを固定具で整理することで生産ペースの改善を図っている。最終的には1機あたり、8万個の固定具が投入された。

このような苦難の歴史の一方、エミレーツ社がビジネスクラスに「空飛ぶバー」を設けるなど、広大なキャビンによるユニークなサービスを可能にしたモデルでもある。エミレーツに加え、アラブのエディハド航空など、ファーストクラスにシャワーを設置した例もある。個性的なスーパージャンボとして、A380は航空ファンにも人気だ。

豪ナイン・ニュースは「広さと快適性で旅客たちに愛され、そしてランニングコストで航空会社に嫌われた」モデルだと述べ、その両面性に触れながら生産終了を惜しんでいる。

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