月に衝突するとみられる物体は「ファルコン9」ではなく、中国のロケットだった
3月4日に月面に衝突する物体は...... Just_Super-iStock
<スペースXの打ち上げロケット『ファルコン9』の上段が3月4日に月面に衝突する、との予測が問題になっていたが......>
自身が開発したソフトウェア「プロジェクト・プルート」を用いて地球近傍天体(NEO)を追跡している米国の天文学者ビル・グレイ氏は、2022年1月21日、「2015年に打ち上げられたスペースXの打ち上げロケット『ファルコン9』の上段が3月4日に月面に衝突する」との予測を明らかにし、メディアを賑わせた。
中国の月探査試験機「嫦娥5号T1」の打ち上げロケットだった
しかし、その後の分析で、月面衝突するのは「ファルコン9」ではなく、中国が2014年に打ち上げた月探査試験機「嫦娥5号T1」の打ち上げロケットであることがわかった。「WE0913A」と名付けられているこの物体は2022年3月4日12時25分頃(協定世界時)に月の裏側と衝突する見込みだ。
2015年2月11日、アメリカ海洋大気庁(NOAA)の人工衛星「DSCOVR」(ディスカバー:深淵宇宙気候観測衛星)が2段式の「ファルコン9」によって打ち上げられた。「DSCOVR」を軌道に送り込んだ後、「ファルコン9」の上段は宇宙空間を漂っている。
「ファルコン9」だと思われていたが
「DSCOVR」の打ち上げから約1か月後の2015年3月14日、地球近傍小惑星とみられる物体が米アリゾナ大学月惑星研究所(LPL)の全天サーベイ「カタリナ・スカイサーベイ」で発見され、「WE0913A」と名付けられた。この物体は太陽ではなく地球を周回していたことから人工物と推測される。グレイ氏は、「DSCOVR」の打ち上げから2日後に「WE0913A」が月を通過していたことを突き止め、「WE0913A」を「ファルコン9」の上段だと特定した。
グレイ氏の一連の予測に対し、「DSCOVR」を含む運用中の宇宙探査機をモニタリングするジェット推進研究所(JPL)のジョン・ジョルジーニ氏は異を唱えた。ジェット推進研究所の「ホライズンズシステム」によれば、当時、「DSCOVR」の軌道は月にそれほど接近していなかった。ジョルジーニ氏は「『DSCOVR』が別の地点にいるのにもかかわらず、『ファルコン9』の上段が月のすぐそばを通過するのはいささか奇妙だ」と指摘する。