最新記事

ウクライナ危機

策士プーチンがウクライナ危機で狙っていること

The West Fell Into Putin's Trap

2022年1月31日(月)17時45分
カロリーヌ・デ・フラウター(フォーリン・ポリシー誌コラムニスト)

220208P40_RSA_02.jpg

ウクライナ国境付近に集結したロシア軍部隊(1月27日) SERGEY PIVOVAROV-REUTERS

それだけではない。プーチンはアメリカを挑発し、アメリカがロシアを深刻な脅威と見なさざるを得ない状況に追い込み、それによってロシアは超大国だというイメージを売り込んでいる。

ロシアのテレビ放送で見ると、米ロ首脳会談はあたかも、2人の対等な大人が(ウクライナを含む世界中の小さな国々という)子供のあしらい方を話し合っているような印象を受けた。

むろん、今に始まったことではない。なのになぜ、欧米諸国は気付かないのか。なぜ毎度のようにプーチンの罠にはまってしまうのか。

ここ数週間で、プーチン政権は大いに点数を稼いだ。

まず、主導権は自分にあり、自分が世界中の新聞の見出しになれることを証明した。世界にも自国民にも、その気になればロシアは何でもできるという印象を与えた。

欧米諸国(と、そのメディア)が大騒ぎしているのも、プーチンなら本当にウクライナに侵攻しかねないと思うからだ。

国内的にも国際的にもひたすら軍事力に依存している体制にとって、内外の潜在的な「敵」に、そう思わせるのは重要なことだ。

次いでプーチンは軍隊を動かし、欧米諸国に衝撃を与えた。そしてウクライナ侵攻が現実になった場合の対策を協議するよう仕向けた。

追加制裁が科されるとしても、それはプーチンの想定の範囲内。むしろ、制裁に関する議論で欧米側各国の温度差が露呈することに、ロシア側は期待している。

いくら強力な制裁と言っても、足並みの乱れはすぐに露呈する。NATOもEUも、しょせん一枚岩ではない。現にドイツなどでは、一国の政府内でも意見が割れている。

プーチンはまた、旧ソ連の衛星国でNATOに加盟し、あるいは加盟しようとしている諸国(ウクライナを含む)に対し、NATOは信用できない、いざとなっても優柔不断だというイメージを植え付けることに成功した。

ウクライナ侵攻が現実になれば欧米諸国は新たな制裁を発動するだろうが、それ以上踏み込むことはないはず。どうせ欧米諸国は軍隊を出してまでウクライナを守ろうとはしない。以前もそうだったし、今度もそうだろう。

そう思わせてしまう状況が、プーチンのロシアを利する。

アメリカの敵でありたい

ロシアが言いたいのはこういうことだ。

ウクライナよ、ロシアの勢力圏から離れたら最後、頼れるのは自分だけ、誰も本気で助けてはくれないぞ。ちなみにロシアは、仲のいい独裁国家(例えばカザフスタン)を助けるためなら喜んで軍隊を送る。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

原油は5ドル過小評価、対イラン制裁で供給減のリスク

ワールド

今年のタイ経済成長率は2.7%、来年は2.9%に加

ワールド

中国のCO2排出量、24年に小幅増の見込み 気候目

ビジネス

日経平均は続落、円高を嫌気 感謝祭前の利益確定売り
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:老けない食べ方の科学
特集:老けない食べ方の科学
2024年12月 3日号(11/26発売)

脳と体の若さを保ち、健康寿命を延ばす──最新研究に学ぶ「最強の食事法」

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    寿命が5年延びる「運動量」に研究者が言及...40歳からでも間に合う【最新研究】
  • 2
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 3
    リュックサックが更年期に大きな効果あり...軍隊式トレーニング「ラッキング」とは何か?
  • 4
    放置竹林から建材へ──竹が拓く新しい建築の可能性...…
  • 5
    「健康食材」サーモンがさほど健康的ではない可能性.…
  • 6
    こんなアナーキーな都市は中国にしかないと断言でき…
  • 7
    早送りしても手がピクリとも動かない!? ── 新型ミサ…
  • 8
    トランプ関税より怖い中国の過剰生産問題
  • 9
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 10
    プーチンはもう2週間行方不明!? クレムリン公式「動…
  • 1
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 2
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 3
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 4
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 5
    寿命が5年延びる「運動量」に研究者が言及...40歳か…
  • 6
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 7
    「このまま全員死ぬんだ...」巨大な部品が外されたま…
  • 8
    「ダイエット成功」3つの戦略...「食事内容」ではな…
  • 9
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 10
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 4
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 7
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 8
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大き…
  • 9
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 10
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中