中国が崩壊するとすれば「戦争」、だから台湾武力攻撃はしない
台湾の若者が「習近平、死ね!」とコメントに書き込めば、大陸の若者は「留島、不留人!」(台湾という島は残すが、台湾人は皆殺しにせよ!)といった具合の激しい罵りあいが展開されている。その罵りあいは、突如、どこからでもやってきて、たとえばオンラインゲームなどに大陸と台湾の若者がゲームのグループとして入っていると、共通の敵に挑みながら、互いに大陸と台湾を罵倒し始めるという状況もある。
中国国内のインフルエンサーたちも、より激しい内容を発表してはアクセス数を稼ぎ、ナショナリズムを煽っている。たとえば2021年7月17日のコラム<「日本が台湾有事に武力介入すれば、中国は日本を核攻撃すべき」という動画がアメリカで拡散>に書いたように、軍事オタクが発表した動画に多くのネットユーザーが集まるのだが、習近平としては海外の人たちに中国が本気で核攻撃するなどと思われてはならないので、こういった動画を削除する作業に追われている。
そのため習近平は「中国はもっと(海外から)愛される国にならなければならない」いう発言をしたほどだ。
これは誰でもがネットにアクセスすることができるようになった結果がもたらした「時代の子」的な現象だが、中国のネット空間はこのような若者に満ちている。誰もが自分の存在意義を主張し確認しようと、言葉は激しくなる一方で、心は互いへの侮蔑と憎しみに歪んでいる。
だから習近平は、台湾周辺での軍事演習を激しくやっては、中国の若者に見せ、「ほら、中国政府はこんなに激しく台湾に接しているので、中国共産党は生ぬるいなどと責めてはダメだよ」とナショナリストたちを説得しているのである。
言うならば、ナショナリストの憤懣へのガス抜きという側面を持っていることを見逃してはならない。
勝てない戦争は絶対にしない――中国共産党一党支配体制維持を優先
以上より、「中国は勝てない戦争は絶対にしない」と言うことができ、もし逆に中国共産党の一党支配体制を崩壊させたいのなら、「アメリカや台湾の方から中国に戦争を今すぐにでも仕掛けるといい」という、何とも皮肉な現実が厳然と横たわっている。
習近平にとって、何よりも重要なのは中国共産党による一党支配体制の維持なので、中国自らが率先して台湾を武力攻撃することはない。
これを勘違いすると、日本は「政冷経熱」を正当化して、経済における日中交流、日中友好ならば「安全だ」と勘違いし、その結果、習近平の思う壺にはまっていくという危険性を孕んでいる。
注意を喚起したい。
(なお、本稿の内容に関しては、NHKの籾井元会長とも激しく議論を交わし、その対談内容は今月26日に発売される月刊誌『Hanada』に掲載される。)
※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。
[執筆者]遠藤 誉
中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士
1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。中国問題グローバル研究所所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。著書に『裏切りと陰謀の中国共産党建党100年秘史 習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』、『ポストコロナの米中覇権とデジタル人民元』、『激突!遠藤vs田原 日中と習近平国賓』、『米中貿易戦争の裏側 東アジアの地殻変動を読み解く』,『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』、『卡子 中国建国の残火』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』など多数。
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