中国の南シナ海進出に悩むフィリピン、切り札導入へ インドから超音速巡航ミサイル購入
2021年4月には天候回復のための避難と称して南沙諸島パグアサ島付近に中国の漁船などが航行し約200隻が付近の環礁などに長期滞在。また11月にはフィリピンの座礁した海軍艦艇へ物資を補給する民間輸送船に対し海警局艦艇が進路妨害や放水するという事件が発生。フィリピンは中国に厳重抗議する事態となっている。
その後中国はフィリピンの座礁した海軍艦艇の撤去を求めてきたが、フィリピンはこれを断固として拒否し続けている。
南シナ海への関心高めるインド
インドは米国が主導する戦略的同盟「日米豪印戦略対話(クアッド)」のメンバーとしてその一角を占め、「自由で開かれたインド太平洋」という理念のもと、南シナ海を含めた太平洋への関心を近年特に強めている。その背景には中国のインド洋への進出に対する警戒感もある。
インドは中国との国境紛争を抱え、2021年も小競り合いなどの衝突が伝えられるなど緊張関係にある。さらに中国は親中であるミャンマーやカンボジアの港湾開発を通じて中国海軍の寄港地としてインド洋への足掛かりを構築しつつあり、そうした中国への警戒感がインドや東南アジア諸国連合(ASEAN)メンバーの間で高まっているという背景も存在する。
このため今回のフィリピンによるインド製超音速巡航ミサイルの導入は、他のASEAN各国にも影響を与えることは必至となっている。
一部情報ではフィリピンが導入を決めた「BrahMos」の導入にインドネシアやベトナムも関心を示して交渉が水面下で進んでいると伝えられており、今後インド軍需産業にとってASEANは米やロシア、中国、ドイツなどに次いで新たな市場となる可能性が極めて高く、東南アジアの武器市場の構造変化につながるのは確実とみられている。
東南アジアは武器市場の草刈り場
東南アジアは歴史的に米国とロシアさらにドイツなどから戦闘機や海軍艦艇、潜水艦、小火器などを購入してきた。そこに中国が参入して親中のカンボジアやラオス、ミャンマーなどを中心に販路を拡大してきた経緯がある。カンボジアは単に中国製武器を導入するだけでなく、国内の人権問題に対して米国が武器禁輸措置に踏み切ると「国内にある米国製武器を廃棄するように」とフン・セン首相が指示。親中の立場を明確にしている。
この時、フン・セン首相は「米国製武器を大量に購入した国や地域はいずれも災難に直面している」と指摘、対米強行姿勢を改めて明らかにしている。
東南アジア各国は自国の防衛産業では近代化や開発が困難な航空機、海軍艦艇、ミサイルやロケットなどの兵器を海外に頼っている。これまでの米露欧に加え中国が参入して売り込み合戦が激化しているが、さらに新たにインドが参戦。今後武器市場を巡る駆け引き、争いが一層激化し東南アジアが「草刈り場」になることが懸念されている。
[執筆者]
大塚智彦(フリージャーナリスト)
1957年東京生まれ。国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞社入社、長野支局、東京外信部防衛庁担当などを経てジャカルタ支局長。2000年産経新聞社入社、シンガポール支局長、社会部防衛省担当などを歴任。2014年からPan Asia News所属のフリーランス記者として東南アジアをフィールドに取材活動を続ける。著書に「アジアの中の自衛隊」(東洋経済新報社)、「民主国家への道、ジャカルタ報道2000日」(小学館)など