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地政学リスクを和らげるのは「水」? 気候変動対策で日本ができることとは

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2022年1月31日(月)11時00分
ニューズウィーク日本版広告制作チーム
沖大幹教授

「気候変動に関わる政府間パネル」第5次報告書統括執筆責任者を務めるなど水資源の持続可能性を研究している沖大幹教授

<近年、各地で起きる災害や異常気象から地球温暖化を実感することが増えてきた。しかし、ヨーロッパ諸国に比べると、気候変動対策に対する切迫感が日本は少々弱いと言われる。その理由と、今後求められる行動について、SDG企業戦略フォーラム座長で地球規模の水循環を専門とする沖大幹教授に伺った>

昨年11月、英グラスゴーで開催されたCOP26(国連気候変動枠組条約締約国会議)では、世界全体で産業革命前からの気温上昇を「1.5℃」に抑える努力を追求するとの合意文書が締結された。改めて気候変動対策が世界全体で取り組むべき喫緊の問題として認識されたことは、評価されるべきだろう。

実は温暖化を含め、気候変動で一番影響を受けるのが「水」資源である。蛇口をひねれば安全な飲み水が供給される日本に暮らしていると、グローバルリスクとしての水危機と聞いてもピンと来ないかもしれない。しかし、自然災害でのリスクはもちろんのこと、米シカゴでは水の先物取引が始まるなど、安価に安定的に水が供給される状況が当たり前でなくなりつつある。

人間にとって不可欠な「水」がどんなリスクを抱えているのか。水文学(すいもんがく)の第一人者である東京大学・沖大幹教授に、JICA(独立行政法人国際協力機構)地球環境部部長・岩崎英二と広報部審議役・見宮美早が聞いた。

「水」が移民ショックを引き起こす

岩崎 水危機がクローズアップされ始めたのはいつ頃でしょうか。

 パリ協定が結ばれた2015年に公表された世界経済フォーラムによる「グローバルリスク報告書」では、水危機がトップアジェンダでした。この年、大量の移民がヨーロッパに流入し、COP21会期中には、パリ同時多発テロが起こっています。

COP21では、チャールズ皇太子が「気候変動がテロをもたらすこともある」と、パリ協定締結の必要性を訴えました。気候変動がテロの遠因となった代表的な例として、中東シリアでの大干ばつがあります。

小麦の栽培が歴史上最初にできたと言われるシリアは、肥沃な三日月地帯と呼ばれる地域です。この地は2006年後半から3年以上にわたり大干ばつに襲われ、農民は農業を続けられなくなりました。そして、農民たちが首都ダマスカスに流入して、内戦が勃発。一部の難民がヨーロッパに来てテロを起こしたとされています。気候変動のために3年連続の大干ばつが生じる確率が2~3倍になったと科学的に推計されるため、気候変動が遠因だとも言われるわけです。

岩崎 農業に水は不可欠なものですから、大干ばつにより農民が移動するのは必然だったということですね。

 水危機というのは、水の循環や需給がそれまでとは変わってしまうのが原因です。従来と同じ生活を送れなくなり生計を奪われてしまうので、仕方なしに移動を強いられるのです。人口移動は社会の不安定化をもたらし、結果的に悪影響が世界全体に波及します。

岩崎 日本に暮らしていると移民問題に鈍感になりがちです。

 ヨーロッパがなぜ気候変動対策に神経をとがらせているかというと、2015年当時、ヨーロッパの人口の0.5%という非常にわずかな人数が流入しただけで、深刻な社会不安と政治システムの変革が引き起こされた苦い経験があるからです。気候変動によってさらに深刻化した移民危機がもたらされるのではないか、と懼れられているのです。

「水」がきっかけで経済が止まる

岩崎 近年、世界各地で風水害による被害が拡大している印象があります。

 実際に増えています。20世紀の最後の20年間と21世紀の最初の20年間では、災害の報告件数は約1.74倍に増加しています。

ただし、世界人口は1.38倍になったにもかかわらず死亡者数は増えていません。防災対策を頑張ったおかげでしょう。ところが、経済被害は約1.82倍に増加しています。人の命はだいぶ守れるようになったけれども、その財産や暮らしを守るところはまだまだできていない。気候変動がなくても自然災害は起こりますし、台風も高潮も来ます。ただ、それが気候変動によって激化するのです。

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