世界的な海運業の「支配」を、慎重に着実に強める中国の深慮遠謀
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世界トップクラスの貨物取扱量を誇る浙江省の寧波舟山港 CNSPHOTOーREUTERS
<海運機材や船舶の製造・保有で世界をリードし、さらに海上路の要所となる「港」を世界各地で100以上も所有>
バイデン米大統領は昨年、西海岸のロングビーチ港とロサンゼルス港を24時間年中無休で操業する計画を発表した。新型コロナウイルス感染症の流行の影響による需給の大幅な変動や港湾労働者の不足によって、アメリカに入るコンテナの約40%を扱うこの主要2港は大混雑。港に積み上がるコンテナの山は、世界経済における海運業の重要性を改めて認識させた。
歴史的に見ても、世界の航路の掌握は国家の経済政策、軍事政策における重要な目標だった。19世紀の米海軍戦略家アルフレッド・セイヤー・マハンは『海上権力史論』で、国家の偉大さは海洋支配権と直結するとし、給油地や運河、港湾などの戦略的重要性を強調した。
その点、中国が国内外で海運業への投資を拡大していることは、アメリカなど地政学的ライバルにとって大きな懸念材料だ。中国は海運機材の主要メーカーであり、世界の海運コンテナの96%、港湾クレーンの80%を生産。2020年の世界の造船注文の48%を受注し、商船の保有船腹量では世界第2位を誇る。
中国は過去10年で、海洋商業圏における支配を強めてきた。中国政府にすればそれは偶然の産物ではなく、慎重かつ戦略的な計画の結果だ。
中国が強い関心を示す港湾の所有権
13年9月、中国の習近平国家主席はカザフスタンのナザルバエフ大学で講演し、「一帯一路」構想を初めて発表した。3つの大陸にまたがり140カ国が協力する巨大経済圏には、2つの要素がある。1つは陸上の経済帯で、中央アジアに高速道路や鉄道網、ガスパイプライン、石油精製所、発電所などを建設するもの。もう1つは海上路で、中国との貿易に使われる港湾や海洋回廊。海上路の戦略で中国が強い関心を示しているのが、港湾の所有権だ。
現在、中国にはどの国よりも多くの積み出し港があり、そのうち7港はコンテナ取扱数で世界トップ10に入る。さらに中国は約63カ国で、100以上の港を所有している。
主な例としては、スリランカのハンバントタ港の99年間の運営権や、パキスタンのグワダル港の40年間の運営権を中国企業が得ていることが挙げられる。インド洋と紅海を結ぶ要衝に近いジブチ港には、35億ドルを投資した。