ミャンマー検察、新たに5件の容疑でスー・チー訴追 追及の手緩めぬ軍政
その後の報道でウィン・ミヤット・アイ社会福祉相は民主派が軍政に対抗して組織した反軍政組織「国家統一政府(NUG)」に参加して人権問題・災害管理の担当大臣として地下活動中であることがわかった。
弁護団への制限、メディアの傍聴禁止
軍政は首都ネピドーの特別法廷で続くスー・チー氏の公判に関して、メディアの傍聴を許さず、彼女の弁護団に対して記者会見やSNS上で公判に関する情報発信を禁じている。
このため公判でのスー・チー氏の様子が一切明らかにならない状況が続いている。しかしこれまでの全ての容疑と同様に「いわれのない容疑であり、無罪である」と無罪を主張しているものとみられている。
こうした状況に軍政のゾー・ミン・トゥン国軍報道官は1月14日の会見で「スー・チー氏は法律に従って裁かれる。それだけで誰も法律を超える存在ではない」と述べ、あくまで法による正当な訴追、公判であることを強調、正当化した。
これまでに禁固6年の判決
スー・チー氏に対しては裁判所が12月6日に2020年11月に行われた総選挙の選挙運動中に十分なコロナ対策を怠った容疑とクーデター発生後に彼女の率いる国民民主連盟が出した声明が社会不安を煽ったとする容疑で禁固4年の実刑判決を言い渡した。その後、軍政は判決直後に恩赦として禁固2年に減刑する措置を明らかにしている。
一方、ウィン・ミン大統領も同じ容疑で禁固4年の判決を受けているが、軍政の恩赦を受けたとの情報はこれまでのところない。
スー・チー氏はさらに1月10日には無線機を違法に海外から輸入した輸出入管理法違反容疑などで禁固4年の判決を受けており、合計で禁固6年の実刑判決を受けたことになっている。
この他にも国家機密法違反、汚職防止法、通信法、総選挙法など10件近い容疑で訴追を受けて公判が続いている。
軍政は2023年に予定される総選挙で民主政権の関係者を全面的に排除して、軍政に従う国民だけによる総選挙を行い、「国民からのお墨付き」獲得を狙う思惑だけに、それまでさらにスー・チー氏への禁固刑による実刑判決、新たな容疑での訴追が相次ぐ可能性が高いとみられている。
今後もスー・チー氏にとって厳しい自宅軟禁と裁判の状況が続くものと予想される。
[執筆者]
大塚智彦(フリージャーナリスト)
1957年東京生まれ。国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞社入社、長野支局、東京外信部防衛庁担当などを経てジャカルタ支局長。2000年産経新聞社入社、シンガポール支局長、社会部防衛省担当などを歴任。2014年からPan Asia News所属のフリーランス記者として東南アジアをフィールドに取材活動を続ける。著書に「アジアの中の自衛隊」(東洋経済新報社)、「民主国家への道、ジャカルタ報道2000日」(小学館)など