最新記事

クーデター

ミャンマー検察、新たに5件の容疑でスー・チー訴追 追及の手緩めぬ軍政

2022年1月18日(火)20時50分
大塚智彦

その後の報道でウィン・ミヤット・アイ社会福祉相は民主派が軍政に対抗して組織した反軍政組織「国家統一政府(NUG)」に参加して人権問題・災害管理の担当大臣として地下活動中であることがわかった。

弁護団への制限、メディアの傍聴禁止

軍政は首都ネピドーの特別法廷で続くスー・チー氏の公判に関して、メディアの傍聴を許さず、彼女の弁護団に対して記者会見やSNS上で公判に関する情報発信を禁じている。

このため公判でのスー・チー氏の様子が一切明らかにならない状況が続いている。しかしこれまでの全ての容疑と同様に「いわれのない容疑であり、無罪である」と無罪を主張しているものとみられている。

こうした状況に軍政のゾー・ミン・トゥン国軍報道官は1月14日の会見で「スー・チー氏は法律に従って裁かれる。それだけで誰も法律を超える存在ではない」と述べ、あくまで法による正当な訴追、公判であることを強調、正当化した。

これまでに禁固6年の判決

スー・チー氏に対しては裁判所が12月6日に2020年11月に行われた総選挙の選挙運動中に十分なコロナ対策を怠った容疑とクーデター発生後に彼女の率いる国民民主連盟が出した声明が社会不安を煽ったとする容疑で禁固4年の実刑判決を言い渡した。その後、軍政は判決直後に恩赦として禁固2年に減刑する措置を明らかにしている。

一方、ウィン・ミン大統領も同じ容疑で禁固4年の判決を受けているが、軍政の恩赦を受けたとの情報はこれまでのところない。

スー・チー氏はさらに1月10日には無線機を違法に海外から輸入した輸出入管理法違反容疑などで禁固4年の判決を受けており、合計で禁固6年の実刑判決を受けたことになっている。

この他にも国家機密法違反、汚職防止法、通信法、総選挙法など10件近い容疑で訴追を受けて公判が続いている。

軍政は2023年に予定される総選挙で民主政権の関係者を全面的に排除して、軍政に従う国民だけによる総選挙を行い、「国民からのお墨付き」獲得を狙う思惑だけに、それまでさらにスー・チー氏への禁固刑による実刑判決、新たな容疑での訴追が相次ぐ可能性が高いとみられている。

今後もスー・チー氏にとって厳しい自宅軟禁と裁判の状況が続くものと予想される。


otsuka-profile.jpg[執筆者]
大塚智彦(フリージャーナリスト)
1957年東京生まれ。国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞社入社、長野支局、東京外信部防衛庁担当などを経てジャカルタ支局長。2000年産経新聞社入社、シンガポール支局長、社会部防衛省担当などを歴任。2014年からPan Asia News所属のフリーランス記者として東南アジアをフィールドに取材活動を続ける。著書に「アジアの中の自衛隊」(東洋経済新報社)、「民主国家への道、ジャカルタ報道2000日」(小学館)など

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

イスラエルがガザ空爆、48時間で120人殺害 パレ

ワールド

大統領への「殺し屋雇った」、フィリピン副大統領発言

ワールド

米農務長官にロリンズ氏、保守系シンクタンク所長

ワールド

COP29、年3000億ドルの途上国支援で合意 不
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 2
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 3
    「このまま全員死ぬんだ...」巨大な部品が外されたまま飛行機が離陸体勢に...窓から女性が撮影した映像にネット震撼
  • 4
    「ダイエット成功」3つの戦略...「食事内容」ではな…
  • 5
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    ロシア西部「弾薬庫」への攻撃で起きたのは、戦争が…
  • 8
    クルスク州のロシア軍司令部をウクライナがミサイル…
  • 9
    「何も見えない」...大雨の日に飛行機を着陸させる「…
  • 10
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 3
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 4
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 5
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 8
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    メーガン妃が「輝きを失った瞬間」が話題に...その時…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 4
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大き…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 7
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 8
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 9
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 10
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中