道路を渡り切れない老人は日本に300万人以上、その理由
だが、「自分の親のことは自分がよく分かっている」「自分の親のことなのだから、子どもが面倒を見なくてはならない」「自分のことをよく分かっている子どもたちに面倒を見てほしい」というように、支援に消極的な人もいる。もちろん家族のことを家族がいちばん理解しているのは事実だが、そこに執着するのは、本人や家族にとって必ずしも幸せではないだろう。
なぜなら、特に高齢者の身体機能の維持には、専門職の意見は欠かせません。
ほとんどの人が、初めての介護になる一方で、いろいろな高齢者の身体を見てきた人の知見は、必ず役に立ちます。(60ページより)
さらに言えば、介護する家族の人生も、同様に大切な人生。介護が負担になって追い込まれるような事態になるのを避けるためにも、介護保険制度を利用するべきだという。
幸いにして私の母は、85歳とは思えないほど矍鑠(かくしゃく)としている。しかしそれでも最近は、階段を登るのが少し苦しそうだ。年齢を考えれば当然だが、今後はこれまで以上に身体機能を見守っていく必要があるかもしれない。明日の母が、昨日と同じ母とは限らないのだから。
本書を読んだ結果、当たり前なものとしてすぐ近くにあった現実を見る目にも、少し変化が生じてきた気がする。
『道路を渡れない老人たち
――リハビリ難民200万人を見捨てる日本。「寝たきり老人」はこうしてつくられる』
神戸利文、上村理絵 共著
アスコム
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[筆者]
印南敦史
1962年生まれ。東京都出身。作家、書評家。広告代理店勤務時代にライターとして活動開始。現在は他に「ライフハッカー[日本版]」「東洋経済オンライン」「WEBRONZA」「サライ.jp」「WANI BOOKOUT」などで連載を持つほか、「ダ・ヴィンチ」などにも寄稿。ベストセラーとなった『遅読家のための読書術』(ダイヤモンド社)をはじめ、『世界一やさしい読書習慣定着メソッド』(大和書房)、『読んでも読んでも忘れてしまう人のための読書術』(星海社新書)、『人と会っても疲れない コミュ障のための聴き方・話し方』(日本実業出版社)など著作多数。新刊は、『書評の仕事』(ワニブックス)。2020年6月、日本一ネットにより「書評執筆本数日本一」に認定された。