道路を渡り切れない老人は日本に300万人以上、その理由
Newsweek Japan
<年を取れば、身体機能は低下する。ここには介護支援の問題が映し出されている>
多くの場合、横断歩道の青信号の点灯時間は、1メートルを1秒で歩ける人に合わせられているという。したがってほとんどの人が、無理なく道路を渡り切ることができる。少なくとも、理屈の上では。
あえて「理屈の上では」とつけ加えたことには理由がある。『道路を渡れない老人たち』(神戸利文、上村理絵・共著、アスコム)の著者で、リハビリ専門デイサービスを行っている「リタポンテ」の代表によると、実際にはこの速度で歩けない人が300万人以上存在するのだ。
リタポンテのご利用者さま397人について、歩行速度を調べたところ、約55.4%にあたる220人の歩行速度が0.8m/秒以下でした。
また、397人全体の平均の歩行速度は、0.58m/秒となりました。(30ページより)
半数以上の人は、歩行者用信号が青のうちに渡り切れない可能性があるということ。したがって、事故が引き起こされる危険性も高くなるわけだ。
事実、警視庁交通局の発表によると、2020年の横断歩道横断中の交通事故死者数230人のうち、65歳以上の高齢者は186人。8割を高齢者が占めている。ちなみに、横断歩道以外での場所も含む横断中の交通事故死亡者数651人のうち、65歳以上の高齢者は537人。こちらもその割合は82%を超えている。
もちろん危険なのは道路だけではなく、高齢者が踏切内に残され死亡する事故も増えている。横断歩道にしても踏切にしても、なんらかの改善が求められている。
だが著者は、それよりも考えなくてはならないことがあると強調する。言うまでもなく、「なぜ青信号や踏切を渡り切れないほど、身体機能が低下してしまったのか?」ということだ。つまり彼らの多くは、のんびり歩いていたから渡り切れなかったのではない。一生懸命歩いても身体機能が追いつかず、渡り切ることができなかったというケースが多いのだ。
すると必然的に、介護による支援の必要が生じてくるだろう。青信号の間に道路を渡り切れないということは、すでに支援が必要な状態であることの目安になる。
だが、そうした現実があるにもかかわらず、なぜいまだに「道路を渡れない老人たち」が300万人以上もいるのだろう? そこには日本の介護支援の問題が映し出されていると考えることもできそうだが、だとすれば問題は何か。
私は、大きく分けて、2つの問題があるのではないかと考えます。
1つは、身体能力が弱っていても支援を受けていないということ。
もう1つは、医師や介護の専門職による情報提供不足や介護に関する社会的インフラが整っていないなどの理由から、介護による支援を受けていても、支援のやり方などが間違っていて、結局、身体機能の改善が見られず、外出もできないまま、徐々に歩けなくなっていくということです。(36ページより)
身体能力が弱っていても支援を受けないのは、額面通りに受け止めれば不思議な話だ。しかし、そこに「介護の持つイメージ」が影響していると聞けば、どこか納得できるのではないだろうか。