「すぐ崩壊する」の観測を覆した金正恩の10周年、侮れない実力と「らしさ」
KIM JONG UN’S DECADE
指導者としての正恩に特徴的なのは、徹底した実利主義と行動の透明性だ。仰々しいイデオロギー的な論調は今も変わらないが、彼は言葉よりも行動と結果を重視している。
正恩は「我々式の経済管理方法」と称するものを打ち出し、農業、工業および金融部門の全面的な改革を進めている。彼の考える経済改革の中心には、各「労働単位」に計画から生産、資源の管理、収益までの全工程にわたって、これまで以上の裁量権を与えるという方針がある。
19年4月には「社会主義企業責任管理制」が憲法に明記された。
また彼が繰り返し掲げてきた目標に「革新」がある。就任当初、正恩が視察したモランボン楽団の公演にはディズニーのキャラクターが出演し、世界を驚かせたことがある。この公演は西側の文化を大々的に支持する内容だったというだけでなく、最高指導者がそのパフォーマンスに支持を表明したという点で、さらに異例な出来事だった。
父や祖父とは異なる正恩のもう1つの特徴は、至らない部分を堂々と認めて謝罪し、問題を隠蔽せずに正面から向き合って対処していることだ。彼が現場視察の際に当局者たちを批判し、問題や失敗を公に認めることは、もはや珍しくない。
例えば20年10月、正恩は軍事パレードでの演説で、国民の期待に十分に応えることができていないと謝罪した。第8回朝鮮労働党大会の開会挨拶では、経済5カ年計画で掲げた目標が「ほぼ全ての部門で未達」だったことを認めている。
強権支配の手綱は緩むか
ここまでは金正恩の歴史と統治スタイルについてのおさらいだが、問題は彼が今後どうするかだ。
一番の懸念は、彼がいかにして経済の舵取りを行い、経済改革を実行していくかだ。正恩は全国ロックダウンを利用して「自力更生」をできる限り推し進め、中国からの輸入を減らし、科学技術を支援することで国内の生産・製造体制を強化したいように見える。
彼はまた、現在の鎖国状態を党と国家の支配力を最大化させる好機と見なし、その間に経済の根本的な立て直しに着手したいようだ。例えば経済の「再調整と発展」や地方経済の発展、「部門主義」や「自分たちの労働単位を特別視する慣行」を排除する取り組みなどがある。
過去1年間の北朝鮮については、経済政策において政府よりも党主導の路線が前面に出ているとの観測があり、北朝鮮の改革は減速または後退している可能性があるとの分析も出ている。北朝鮮では従来から、政府が改革の担い手で、党は保守派の牙城と目されているから、こうした分析が浮上するのは当然だ。