最新記事

中国

彭帥さん、告白文を書いたことを認め、「性的侵害」を否定:シンガポール紙に肉声と動画

2021年12月21日(火)12時59分
遠藤誉(中国問題グローバル研究所所長)

あのウェイボーには複数個所にわたり、彭帥の張高麗への愛が切々と書かれており、苦しい思いが伝わってくる。

愛していて、同意の上だった。

ウェイボーの文章と聯合早報の動画は、それを明確に示している。これ以上の証拠はないと言っていいだろう。

もっとも、プライバシーと言うなら、なぜ告白してしまったのかと言いたくなる。それくらい愛していたために怒りが抑えられなかったと解釈するしかない。

彭帥はなぜ取材を受けられるようになったのか?

これは個人的感想になるが、彭帥のような真っすぐな性格のアスリートは、「ウソをつけ」と命令されても承諾しないだろうと推測される。

そこで11月2日にウェイボーを発信した後しばらくは当局(中国政府のしかるべき部局)の監視下にあり、彭帥は自由を奪われただろうが、当局としては彭帥の性格上、「このようなことはなかったものとして行動しろ」とは言えないことが分かったので、せめて上記のような真実は「聞かれたら言う」けれども「監視などされておらず、自由だ」と主張してくれればそれでいいと判断したのではないかと思うのである。

つまり、そういう条件で一定程度、自由行動を許したのではないだろうか。

当局は、その方が中国が国際社会から批難を受ける程度が低くなると判断した可能性がある。

事実、彼女は記者の「監視されているのではないのですか?」という質問に対して「なんで私が監視されなければならないんですか? 私はずーっと自由です!」と非常に不機嫌に答えている。

注目すべきは、聯合早報の記事は、動画とともに大陸でも観ることができる形で開放されているということだ。

習近平は、1990年代に再び鄧小平によって失脚に追い込まれた父・習仲勲に親切にしてくれた張高麗を高く評価して、2012年の第18回党大会におけるチャイナ・セブン(中共中央政治局常務委員会委員7名)の一人に任命した。だから、その任命責任があるが、党の紀律検査委員会から見れば道徳的に許し難いとしても、「同意の上」での行為であるなら、処罰しにくい面もあるだろう。

特に今は来年の北京冬季五輪を無事に終えたいし、来年秋の第20回党大会も控えている。したがって彭帥が「同意の上だ」ということと「監視などされておらず、全く自由だ」と言ってくれるなら、国際社会は非難しようがなくなるので、取材を受けることを許し、静かに時間が過ぎていくのを待つことにしたのだと解釈される。

張高麗に関しては、密かに自由を奪い、厳しい監視の下に置いていることは疑う余地がない。しかし表面的には今は動かず、じっと第20回党大会が無事に成功するのを待ち、それが過ぎれば具体的措置が何か下る可能性も秘めているのかもしれない。しばらく成り行きを観察したい。


※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。

この筆者の記事一覧はこちら

51-Acj5FPaL.jpg[執筆者]遠藤 誉
中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士
1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。中国問題グローバル研究所所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。著書に『裏切りと陰謀の中国共産党建党100年秘史  習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』、『ポストコロナの米中覇権とデジタル人民元』、『激突!遠藤vs田原 日中と習近平国賓』、『米中貿易戦争の裏側 東アジアの地殻変動を読み解く』,『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』、『卡子 中国建国の残火』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』など多数。

20240521issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2024年5月21日号(5月14日発売)は「インドのヒント」特集。[モディ首相独占取材]矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディの言葉にあり

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

台湾の頼次期総統、20日の就任式で中国との「現状維

ワールド

イスラエル軍、ガザ北部で攻勢強化 米大統領補佐官が

ワールド

アングル:トランプ氏陣営、本選敗北に備え「異議申し

ビジネス

日本製鉄副会長が来週訪米、USスチール買収で働きか
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバいのか!?

  • 3

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイジェリアの少年」...経験した偏見と苦難、そして現在の夢

  • 4

    「まるでロイヤルツアー」...メーガン妃とヘンリー王…

  • 5

    時速160キロで走行...制御失ったテスラが宙を舞い、4…

  • 6

    チャールズ英国王、自身の「不気味」な肖像画を見た…

  • 7

    日本とはどこが違う? 韓国ドラマのオリジナルサウン…

  • 8

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 9

    英供与車両から巨大な黒煙...ロシアのドローンが「貴…

  • 10

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 6

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 7

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 8

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 9

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 10

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 4

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中