これさえ知ればフィギュア通! 北京五輪男子代表3選手の神演技をおさらいする
3つ目は2019年全日本選手権のFS「Dancing On My Own」です。2018-19年シーズン終了後、5歳の頃から師事していたコーチのもとを離れた宇野選手は、19-20年シーズンの前半はコーチ不在で不調に陥り、表彰台からも遠ざかりました。復調の兆しが見える中、参加した全日本ではSPを終えて羽生選手に次ぐ2位。「スケートの楽しさ」を思い出したように演技中に笑顔も見えたFSで逆転し、全日本四連覇を達成しました。
鍵山優真選手(18)──全ての要素で余裕を感じさせる新星
SP「君微笑めば」、FS「グラディエーター」
2018-19年シーズンから国際大会に出場し始めた期待の新星。翌19-20年シーズンには、全日本選手権で3位、ユースオリンピック優勝、世界ジュニア選手権で2位と大躍進を遂げます。20-21年シーズンにシニアに上がると、たちまちトップ選手の一人となりました。
鍵山選手の魅力は、軽やかなスケーティングと力みのないジャンプです。父親でコーチでもある正和さんは1992年と1994年の冬季五輪代表で、4回転ジャンプを日本人として初めて演技に組み込みました。
今季のSPは、アメリカのスタンダードナンバーに、浅田真央選手の2014年ソチ五輪のSP「ノクターン」などで名高いローリー・ニコルさんが振り付けました。古き良きアメリカのハッピーな雰囲気を、難易度の高いジャンプを入れながら、途切れなく軽快に表現するところが見どころです。
いっぽうFSは、ピアノの調べに乗ってしっとりと演技します。基本に忠実で、ジャンプ、スピン、ステップの全ての要素で余裕を感じさせる技術の確かさが鍵山選手の武器です。基礎点にプラスされるGOE(出来栄え点)で、どれくらい高得点を積み重ねられるかが注目ポイントです。
鍵山選手の代表的な演技の1つ目は、15歳で出場した2018年全日本選手権FSの「龍馬伝」です。初の全日本で3回転半ジャンプをきっちりと決めてSP6位になると、転倒はあったもののFSも6位。最終順位も6位と大健闘しました。現在と比べると上半身の動きはぎこちなく、4回転ジャンプもありませんが、ふわりと飛び上がって余裕を持って降りてくるジャンプとスルスルと滑るスケーティングの巧みさは、この時点から際立っています。
2つ目は2020年ユースオリンピックFSの「タッカー」です。表情豊かに踊り、見ている人も笑顔にするようなパフォーマンスを繰り広げます。ジャンプは4回転を2本、3回転半を2本、試合に入れられるようになり、SP3位から逆転で優勝を果たします。
3つ目は2021年世界選手権FSの「アバター」です。普段の鍵山選手の演技と比べると、緊張からか急いているような印象がありミスも目立ちます。けれど、これまで父子二人三脚で行ってきた丁寧な練習は裏切らず、各要素の質の良さが評価されて日本選手最上位の銀メダルを獲得しました。
三者三様の個性がある羽生選手、宇野選手、鍵山選手は、誰もが北京五輪でメダルを獲る可能性があります。観戦者の私たちもしっかりと予習をして、五輪本番の演技を余すことなく楽しみましょう。
[筆者]
茜 灯里(作家・科学ジャーナリスト)
東京大学理学部地球惑星物理学科、同農学部獣医学専攻卒業。東京大学大学院理学系研究科博士課程修了。博士(理学)、獣医師。朝日新聞記者、国際馬術連盟登録獣医師などを経て、現在、大学教員。フィギュアスケートは毎年10試合ほど現地観戦し、採点法などについて学会発表多数。第24回日本ミステリー文学大賞新人賞を受賞。デビュー作『馬疫』(光文社)を2021年2月に上梓。