最新記事

隔離

キャセイ航空パイロットが苦しむ、年最大150日の隔離生活 日光ない「独房」も

2021年12月15日(水)19時03分
青葉やまと

キャセイ航空のパイロットは、世界でも最も厳しい隔離体制の環境で働くことに疲れ果てているという......  REUTERS/Tyrone Siu

<入国のたび3週間の隔離を迫られ、国際線乗務員たちの精神は限界に>

かつて花形の職業であったパイロットだが、コロナ禍で状況は変貌している。香港の代表的なキャリアであるキャセイ航空のパイロットたちは、年間最大150日間におよぶ孤独な隔離生活を送り、その一部を日の光も差さず運動もできない独居房のような部屋で過ごす。新型コロナに伴う措置だが、隔離対象者たちの精神は限界に近い。

CNNは、キャセイのパイロットたちが「世界でも最も厳しい隔離体制に数えられる環境で働くことに疲れ果て、気分がふさぎ込んでおり、一部の人々は限界に達しつつある」と報じる。

従業員のあいだでフラストレーションは蓄積する一方であり、同社は職場の士気の低下と離職者の急増に直面している。あるパイロットはCNNに対し、「士気は完全に失われた。完全にだ」「皆が怒っている」と憤りを隠さない。キャセイはすでに昨年10月、ほぼすべての従業員を対象に、最大58%に相当する賃金カットを実施している。

クルーたちを追い込んでいる根本的な要因は、香港が敷く厳しい入国管理だ。

秘策「クローズド・ループ」を打ち出すが......

香港政府は中国本土と足並みを揃える形で、 ゼロコロナ政策を基本にした厳格な水際対策を実施している。こうしたなかキャセイは国際線のフライトを維持すべく、クローズド・ループと呼ばれる運用方法を打ち出した。

ループに志願したパイロットは、アメリカやイギリス、インドなど、数十の高リスク国へのフライトに従事する。ループは数週間続き、この間、クルーたちは到着先の国でホテルから出ることを許されない。また、香港に戻るたびに2週間のホテル隔離生活に入る。こうして海外と香港との往復を数週間繰り返し、さらにループを終えた際には、自宅でおよそ3週間の隔離に入る。

ループへの志願は任意だが、参加しない場合は他路線あるいは貨物便の担当へ振り替えられるか、場合によってはまったく乗務の機会がないこともあり得る。ループに応じた乗務員のなかには、一度ループを経験したことで精神的に参ってしまい、二度目以降を辞退する者も多い。プログラムへの志願者は総じて足りず、キャセイは一部海外路線の減便に追い込まれている。

24時間を超える乗務後、空港で数時間の検査

メンタルへの負担は甚大だ。英BBCはパイロットの声として、厳格な隔離ルールが「メンタルヘルスに影響を与え、私生活にも負担を生じている」との訴えを取り上げている。

ある匿名のパイロットは、「(クルーたちは)25時間以上も飛行機に乗務しており、遅れが出れば30時間近くになることも珍しくありません」と述べている。過酷な勤務を終えると、その後さらに検査のため、4時間ほど空港の硬い椅子の上に留め置かれることになる。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

豪4月就業者数は予想以上に増加、失業率4.1%に上

ビジネス

米バークシャー、保険大手チャブ株を67億2000万

ワールド

中国、核兵器を増強しつつ先制不使用協議を要求 米が

ワールド

ブラジル洪水の影響、数週間続く可能性 政府は支援金
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 2

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史も「韻」を踏む

  • 3

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダブルの「大合唱」

  • 4

    マーク・ザッカーバーグ氏インタビュー「なぜAIを無…

  • 5

    それでもインドは中国に勝てない...国内企業の投資意…

  • 6

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 7

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 8

    羽田空港衝突事故で「日航の奇跡」を可能にした、奇…

  • 9

    総額100万円ほどの負担増...国民年金の納付「5年延長…

  • 10

    奇跡の成長に取り残された、韓国「貧困高齢者」の苦悩

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋戦争の敗北」を招いた日本社会の大きな弱点とは?

  • 4

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 5

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 6

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 7

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 10

    ウクライナ防空の切り札「機関銃ドローン」、米追加…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 10

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中