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ミャンマー、軍政と反体制派がSNS上で「情報戦争」 国民の心つかむのはどちらか

2021年11月6日(土)10時23分

フェイスブックは、2018年以来、ミャンマー国軍関係者とつながりのあるアカウントやページを数百件停止したと述べている。これに先立って、ニューヨーク・タイムズは「ムスリム少数民族であるロヒンギャに対する暴力を先導するフェイクページの背後に、軍当局者の存在がある」といい、ロヒンギャは「2017年の国軍による弾圧で、70万人が国外に逃亡した」と報じた。またロイターの調査では、フェイスブックがロヒンギャに対するヘイトスピーチを野放しにしていたことが判明している。

一方ユーチューブは、ロイターが指摘したニュース配信を装う国軍寄りのチャンネル2件を「既に停止した」とし、「規約違反」コンテンツを監視していると述べている。ティックトックは、ガイドラインに違反したミャンマー国内のアカウント数千件を「積極的に削除」したとしている。

ツイッターは、情報操作の試みに対して警戒を怠っていないと述べている。テレグラムにもコメントを求めたが、回答は得られなかった。

国軍の広報・情報生産部門が「情報戦争」

ミャンマーでは、首都ネピドーに「カカコム」という略称で知られる国軍の広報・情報生産部門があり、情報戦への取り組みの旗振り役を務めている。ニイ・スータ氏、リン・テット・アウン氏によれば、この部門には数百人の兵士が所属しているという。

「カカコムは、逮捕すべき、あるいは現場監視の対象とすべきであると判断した人物の情報を軍情報部に提供している」とリン・テット・アウン氏は言う。

軍を離脱した両氏によれば、この軍中央の部署では、国内各地や国軍の地域司令部、大隊レベルに配置された数十の小規模なSNS担当チームの作業を統括しているという。

国軍はクーデター以来、インターネット利用を何度か暫定的に制限しており、2月にはフェイスブックの利用を禁止した。だが同社のデータによれば、ミャンマーでは7月の時点でまだ2000万人が利用を続けているという。クーデター前の1月の数字は2800万人であり、研究者らによれば、仮想プライベートネットワーク(VPN)を利用して禁止措置を回避しているユーザーも多いという。

ニイ・スータ、リン・テット・アウン両氏によると、トラブルの兆候を監視している兵士らは、軍からの離脱を防ぐため、他の兵士の間に反発がないかを特に警戒している。「監視チーム」の一部には、戦闘任務に就くことを認められていない女性兵士が配属されていることが多いという。

軍を離脱した2人と、もう1人別の軍関係の情報提供者によれば、兵士とその家族らは総選挙前とクーデター後の2度にわたり、自分のSNSアカウントについて軍に申告するよう命じられた。軍事政権に批判的な、あるいはアウン・サン・スー・チー氏を支持するような内容を投稿しないよう警告されたという。

ニイ・スータ氏によれば、彼を初めとして軍を離脱した兵士らは、オンラインでの攻撃のターゲットになっている。

ロイターでは、数千人の兵士が参加しているテレグラム上のグループ2つを検証した。兵士らはグループ内で、彼らがいわゆる「スイカ」ではないかと疑う人々の身元や写真、SNS上のアカウント情報を交換していた。「スイカ」とは、表向きは軍事政権に従っているが、内心ではアウン・サン・スー・チー氏を支持している人々を指す。スー・チー氏率いるNLDのイメージカラーが赤であることから、「中は赤い」という趣旨である。

リン・テット・アウン、ニイ・スータ両氏によれば、彼らが軍を離脱したのは、クーデターに抗議しようという自発的な意思によるものだという。リン・テット・アウン氏は現在、ミャンマー国内で反政府勢力の訓練を手伝っている。

ニイ・スータ氏は所在を明らかにしていないが、軍からの離脱を望んでいる関係者を対象としたオンライン支援組織「ピープルズ・ソルジャーズ(人民の兵士)」を立ち上げたところだという。このグループはフェイスブック上で25万人以上のフォロワーを集めているが、クーデター以来、2000人の兵士が軍を離脱したと推定している。ロイターではこの数字の裏付けを取ることができなかった。

「軍で学んだ情報戦争の戦術を、軍事政権に対して使っている」とニイ・スータ氏は話している。

(Fanny Potkin記者、Wa Lone記者、翻訳:エァクレーレン)

[ロイター]


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