最新記事

日本社会

「あの林家の息子」と知られ仕事はクビ、結婚も破談に 和歌山カレー事件の加害者家族を襲った過酷な日々

2021年11月29日(月)17時11分
加藤 慶(ライター、フォトグラファー) *PRESIDENT Onlineからの転載

飲食店をクビになり、結婚も破談

今までの人生で一番充実していたときはいつかという問い掛けに、「みんなそろって実家で過ごしていた10年間しか、手放しで幸せを感じていないんです。あの楽しかった毎日の記憶が今でもあるから和歌山から離れたくない。だから、お父さんが出所すると自然と家族が集まった」と回想する。だが、思い出の実家も00年に何者かに放火されて全焼。更地となった。帰る場所も今はない。

預けられた児童養護施設ではいじめを受けた。社会に出て働いた飲食店でも、素性を知られると「衛生的に良くない」とクビ同然で退職。「林家の息子」と打ち明けると結婚すら破談になった。ありとあらゆる差別を、身をもって味わった。

newsweek20211129a.jpg一般的に社会からこれほどひどい仕打ちに遭えば、道を逸脱すると考える人も多いのではないか。だが、それも違う。罪を犯せば「林家」という枕詞が付いて回る。世間から「やっぱりか」とレッテル貼りされるのが嫌なのだ。

「仮に万引一つでもすると、おそらく大きなニュースになって家族にも取材が行く。子どもながらに、そう思ってました。バイク乗り回すにしても、シンナー吸うにしても全部お金がかかる。金銭的に余裕がないですから。加害者家族にはそんな余裕はないです。それだったら1食でも多く食べたい」

マスコミに苦しめられつつ、本音で語れる相手もマスコミだけ

ところで、こうした取材を浩次さんと父親の健治さんが受けるのも、自分の兄弟に取材が向かわないようにするストッパーの役割も兼ねている。

一方で、取材を快く思っていない兄弟と次第に疎遠となった。万が一を考慮して、兄弟は住所や電話番号すらも浩次さんに伝えていないという。用があれば一方的にLINEが送られてきて、既読になるとその後ブロック。連絡が入るのも何年かに一度。普通に生きたいと思う兄弟と、母親の無実を証明したい浩次さんとの間で隔たりが生まれてしまったのだという。

取材で私生活を公にするのは、確かにさまざまなリスクも孕んでいる。父親の健治さんは根っからの話好きで、東京から記者が訪れるとまず断らない。全員自宅に招き入れてしまうから、浩次さんは「自制して」と口を尖らせる。マスコミは諸刃の剣である。健治さんも過去の経験上からそれを痛感しているが、「和歌山までわざわざ来たんだから申し訳ない」とこぼすのだ。

マスコミに人生を狂わされる一方で、本音で語れる相手もマスコミ人という矛盾を抱えたまま、19年4月に浩次さんはある行動に出る。某局に勤務するTVカメラマンから「マスコミ対策でTwitterアカウントを持った方がいい」とアドバイスされ、アカウントを開設した。これまでもテレビ局との打ち合わせで「冤罪を訴える番組構成にする」と言われても、放映を見ると事件を扱うのみということがあった。無実を訴える浩次さんのインタビューは全カットされた。そして翌年になると風物詩のように再び彼を持ち上げて、何事もなかったように出演を依頼する。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

訂正-台湾、米関税対応で27億米ドルの支援策 貿易

ビジネス

米雇用統計、3月雇用者数22.8万人増で予想大幅に

ビジネス

中国が報復措置、全ての米国製品に34%の追加関税 

ビジネス

世界食料価格、3月前年比+6.9% 植物油が大幅上
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ひとりで海にいた犬...首輪に書かれた「ひと言」に世界が感動
  • 2
    5万年以上も前の人類最古の「物語の絵」...何が描かれていた?
  • 3
    「最後の1杯」は何時までならOKか?...コーヒーと睡眠の「正しい関係」【最新研究】
  • 4
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 5
    【クイズ】日本の輸出品で2番目に多いものは何?
  • 6
    アメリカで「最古の銃」発見...いったい誰が何のため…
  • 7
    得意げに発表した相互関税はトランプのオウンゴール…
  • 8
    テスラが陥った深刻な販売不振...積極プロモも空振り…
  • 9
    大使館にも門前払いされ、一時は物乞いに...ロシア軍…
  • 10
    「ネイティブ並み」は目指す必要なし? グローバル…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 5
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 6
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2…
  • 7
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 8
    あまりにも似てる...『インディ・ジョーンズ』の舞台…
  • 9
    突然の痛風、原因は「贅沢」とは無縁の生活だった...…
  • 10
    なぜ「猛毒の魚」を大量に...アメリカ先住民がトゲの…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 3
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 4
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 5
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 6
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 7
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 8
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアで…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中