最新記事

中国スパイ

「消えた」香港人著名活動家は中国が仕掛けたハニートラップの犠牲者か

Chinese Honey Trap Rumor Fuels Hong Kong Paranoia As Activist 'Disappears'

2021年11月10日(水)19時03分
デービッド・ブレナン

チェンはかつて、在香港英国総領事館で貿易・投資担当官として働いていたが、2019年に中国当局に身柄を拘束された。彼によれば、中国の諜報部員たちは彼を拷問し、香港で起きた抗議デモを扇動した「イギリス側のスパイ」であることを無理やり認めさせようとしたという。また諜報部員たちはチェンに、売春をそそのかしたという嘘の自白を強要し、それを録音したということだ。

釈放された後、チェンはロンドンに逃れて2020年にイギリスへの亡命を認められた。だが中国の領土から逃げても、それで全てが解決した訳ではなかった。イギリスにいても監視され「尾行もされている」とチェンは言う。「中国共産党寄りの国営メディアから標的にされている。彼らは私たちの思想や影響力、そして活動を隔離しようとしているのだ」

「今もイギリス国内には、数多くの(中国の)情報提供者や工作員、さらには警察官がいると確信している。政治犯罪についての『適切な捜査』を行うためだ」とチェンは言い、国家安全維持法の下で訴追される可能性がある複数の例に言及した。

イギリスで暮らす香港出身者たちの生活のあらゆる面に、脅威が潜んでいる。新たに逃れてきた人々を支援するためのネットワークでさえ、中には中国共産党とつながりのある組織の管理下にあるところがある。

遠くに逃れても追ってくる

ロンドンを拠点に活動する事務弁護士で、香港の民主活動家たちに法的な助言を行ってきたタヤブ・アリは、中国がBNO制度を悪用しようとしているのはほぼ確実だと本誌に語った。

「中国政府が――もしかしたらそのほかの独裁政府と協力して――イギリス国内の活動家グループに潜入するための、どんな制度も悪用しようとする可能性はきわめて高いと思う」と彼は語り、さらにこう続けた。「イギリス政府の関係者で、中国に経済的な利害関係を持っている者がいる。そうした者たちが、イギリスの国家安全保障を中国の影響力から守る上で、問題を複雑にする可能性がある」

中国企業は過去10年の間に、イギリスの企業やインフラに690億ドル以上の投資を行ってきた。中国政府はイギリス国内で大きな影響力を持っており、一部の報道によれば、その影響力を利用してイギリスの政治家とより緊密な関係を結ぼうとしている。

中国共産党の諜報活動をめぐる懸念について、本誌は在英中国大使館にコメントを求めたが、返答はなかった。

香港の活動家たちは、中国本土や香港から遠く離れたイギリスにやって来ても尚、最大限の注意を払いながら活動を続けなければならないのだ。

警戒する香港出身者

ロンドン東部で中国人のためのコミュニティセンターを運営する著名な活動家ジャベス・ラムは、在英亡命者の信頼を得るために懸命に努力していると語った。「イギリスに到着した香港人は、自分の個人情報や身元を明かすことにはとても慎重になっている」

「私はとても自由に発言しているし、知名度も高い。私のセンターには迫害から逃れる中国人を支援してきた歴史がある」と、ラムは語る。

「これまで何百人もの香港人に出会ったが、そのうち8割はいまだに氏名を教えてくれない。私は彼らの信頼を勝ち取らなければならない。香港出身者は私に個人情報を明かすことで、みずからを危険にさらすことになるからだ」

ラムは今年7月、ウォンに連絡をとった。その時点でハニートラップの噂はすでに耳にしていた。

「その時点で、ウォンがハニートラップにはまったとか、運動が危うくなったという噂がささやかれていた。私は彼と話をして、それを突き止めたかっただけだ」

2人は短い会話を交わしたが、その間、「ウォンは顔を合わせたくないような口ぶりだった」と、ラムは言った。「それもおかしなことではない。浮気をしている人が旧友と会いたがらないのは、珍しいことではない。きまりの悪い思いはしたくないものだ」

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

イスラエルがガザ空爆、48時間で120人殺害 パレ

ワールド

大統領への「殺し屋雇った」、フィリピン副大統領発言

ワールド

米農務長官にロリンズ氏、保守系シンクタンク所長

ワールド

COP29、年3000億ドルの途上国支援で合意 不
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 2
    「ダイエット成功」3つの戦略...「食事内容」ではなく「タイミング」である可能性【最新研究】
  • 3
    「このまま全員死ぬんだ...」巨大な部品が外されたまま飛行機が離陸体勢に...窓から女性が撮影した映像にネット震撼
  • 4
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 5
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 6
    寿命が5年延びる「運動量」に研究者が言及...40歳か…
  • 7
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 8
    クルスク州のロシア軍司令部をウクライナがミサイル…
  • 9
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 10
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」…
  • 1
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 2
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 3
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 4
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 8
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 9
    「このまま全員死ぬんだ...」巨大な部品が外されたま…
  • 10
    2人きりの部屋で「あそこに怖い男の子がいる」と訴え…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 4
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大き…
  • 5
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 6
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 7
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 8
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 9
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 10
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中