最新記事

衆院選

総選挙で小さく勝ち大きく負けた野党、狙って得た「成果」は何もなかった

WINNING SMALL, LOSING BIG

2021年11月12日(金)19時02分
石戸 諭(ノンフィクションライター)

そして第3に自民党の石原伸晃陣営の戦略ミスだ。石原サイドは「新型コロナウイルス感染防止対策」を理由に、徹底的にメディアの取材を避けた。本来ならば派閥の議員を応援するため、全国各地を飛び回らなければならないはずの石原を選挙区に張り付かせるまではよかったが、遊説日程は徹底的に隠した。

直前に「どこそこで演説をする」とSNSに告知するだけの「ステルス作戦」に徹した。彼らとしては、下手に人を集めて訴えるより、細かい集会を重ね組織票を固めて勝つという狙いがあったとみられる。

舘ひろしの応援も完全非公開

10月23日午後6時半、杉並公会堂──。最大1190席の大ホールに、支援者が続々と集まってきた。メディアには完全非公開で開かれた総決起集会である。記者に潜り込まれることを警戒してか、名前、住所、電話番号を書く記帳台も設けられた。当然、私も入ることはできなかったが参加者からの証言を得た。そこには、彼らの戦略ミスのほとんど全てが詰まっていた。

この集会で陣営幹部が強調していたのは「油断」だった。山本太郎がやって来ると思って慌てた、しかし降りるとなったのでほっとしたという油断である。吉田陣営が怒りで結束するのと同じ時期に、彼らは緩んでしまった。そこからいくら引き締めを図っても難しかったのだろう。

群馬県知事の山本一太は群馬出身の人気バンド「ボウイ」とかけて、石原は「自民党のボウイ」であるといった内容の薄い演説に終始した。参院議員の今井絵里子は「石原候補は実は手話もできる。難聴対策推進議連の会長だ」という実績を強調したが、演説全体を通して選挙応援よりも自分の顔を売ることを優先したという印象が強く残るものだった。

集会のハイライトは舘ひろしからのビデオメッセージだ。かつての石原プロモーションを代表する俳優は「個人としては応援団長を自負している。日本の未来のために国政に送ってほしい」と語った。問題は、ここで本当は禁止されていたはずの写真撮影を始める支援者もいたことだ。陣営の規律は目に見えて緩んでいた。

最後にマイクを握った石原自身も、自らの手で逆効果にしかならないメッセージを発してしまった。彼が最初に語ったのは「この選挙は妨害が多い」という話だった。そこで終わればまだいいものの、出陣式でヤジが飛んできたが自分は一切反論しなかったというエピソードまで熱心に語ってしまった。自分が成し遂げたいことよりも先に、相手陣営をにおわせるような話から入るのは明らかに悪手だ。この時点で、流れは吉田陣営へと傾いていた。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏とゼレンスキー氏が「非常に生産的な」協議

ワールド

ローマ教皇の葬儀、20万人が最後の別れ トランプ氏

ビジネス

豊田織機が非上場化を検討、トヨタやグループ企業が出

ビジネス

日産、武漢工場の生産25年度中にも終了 中国事業の
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口の中」を公開した女性、命を救ったものとは?
  • 3
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは? いずれ中国共産党を脅かす可能性も
  • 4
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 5
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 6
    ロシア武器庫が爆発、巨大な火の玉が吹き上がる...ロ…
  • 7
    足の爪に発見した「異変」、実は「癌」だった...怪我…
  • 8
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 9
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 10
    日本では起こりえなかった「交渉の決裂」...言葉に宿…
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 3
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 4
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?.…
  • 5
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 8
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学…
  • 9
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 10
    【クイズ】世界で最もヒットした「日本のアニメ映画…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 6
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 7
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中