総選挙で小さく勝ち大きく負けた野党、狙って得た「成果」は何もなかった
WINNING SMALL, LOSING BIG
そして第3に自民党の石原伸晃陣営の戦略ミスだ。石原サイドは「新型コロナウイルス感染防止対策」を理由に、徹底的にメディアの取材を避けた。本来ならば派閥の議員を応援するため、全国各地を飛び回らなければならないはずの石原を選挙区に張り付かせるまではよかったが、遊説日程は徹底的に隠した。
直前に「どこそこで演説をする」とSNSに告知するだけの「ステルス作戦」に徹した。彼らとしては、下手に人を集めて訴えるより、細かい集会を重ね組織票を固めて勝つという狙いがあったとみられる。
舘ひろしの応援も完全非公開
10月23日午後6時半、杉並公会堂──。最大1190席の大ホールに、支援者が続々と集まってきた。メディアには完全非公開で開かれた総決起集会である。記者に潜り込まれることを警戒してか、名前、住所、電話番号を書く記帳台も設けられた。当然、私も入ることはできなかったが参加者からの証言を得た。そこには、彼らの戦略ミスのほとんど全てが詰まっていた。
この集会で陣営幹部が強調していたのは「油断」だった。山本太郎がやって来ると思って慌てた、しかし降りるとなったのでほっとしたという油断である。吉田陣営が怒りで結束するのと同じ時期に、彼らは緩んでしまった。そこからいくら引き締めを図っても難しかったのだろう。
群馬県知事の山本一太は群馬出身の人気バンド「ボウイ」とかけて、石原は「自民党のボウイ」であるといった内容の薄い演説に終始した。参院議員の今井絵里子は「石原候補は実は手話もできる。難聴対策推進議連の会長だ」という実績を強調したが、演説全体を通して選挙応援よりも自分の顔を売ることを優先したという印象が強く残るものだった。
集会のハイライトは舘ひろしからのビデオメッセージだ。かつての石原プロモーションを代表する俳優は「個人としては応援団長を自負している。日本の未来のために国政に送ってほしい」と語った。問題は、ここで本当は禁止されていたはずの写真撮影を始める支援者もいたことだ。陣営の規律は目に見えて緩んでいた。
最後にマイクを握った石原自身も、自らの手で逆効果にしかならないメッセージを発してしまった。彼が最初に語ったのは「この選挙は妨害が多い」という話だった。そこで終わればまだいいものの、出陣式でヤジが飛んできたが自分は一切反論しなかったというエピソードまで熱心に語ってしまった。自分が成し遂げたいことよりも先に、相手陣営をにおわせるような話から入るのは明らかに悪手だ。この時点で、流れは吉田陣営へと傾いていた。