総選挙で小さく勝ち大きく負けた野党、狙って得た「成果」は何もなかった
WINNING SMALL, LOSING BIG
本当の理想シナリオを言えば、と彼は語った。狙いはこの時点で自民党幹事長だった甘利明の神奈川13区だった。そこに野党統一候補の山本が挑戦するという構図をつくり、消費税減税、政治とカネを争点とする象徴的な選挙区とする。狙いは小選挙区の勝利だけでなく、首都圏での比例票掘り起こしだ。メディアの注目を引き付ける選挙区をつくり出し、小選挙区+比例票の上乗せを狙えば、山本だけで数議席を獲得するチャンスが生まれる。
セカンドベストは、比例の議席数が多い近畿ブロックを狙って、大阪で維新の会と対峙しながら票を掘り起こすという選択だ。実際に出馬する可能性を想定し、山本は昨秋の大阪都構想をめぐる住民投票で反対運動に加わっていた。
希代のポピュリストである山本の力を発揮するためには、「立ち向かう強敵」と「確実に得られる議席と与党にダメージを与える議席」の両方が必要になる。そのターゲットをどこに定めるのか。数々の選挙戦を仕切ってきただけあってか、斎藤の視点は意外なほど冷静だった。
「8区は雨降って地固まる効果はあった。共産党も(候補者を)降ろしやすくなったし、候補者の名前が無党派にも浸透した。これで石原は負けるだろう」
立憲幹部への怒りがもたらした結束
まさに山本騒動は小さな追い風を2つ吹かせた。1つは結束であり、もう1つは認知度の向上だ。もともと8区から出馬を表明していた上保匡勇をはじめ共産党関係者も、騒動で注目が集まったことが立候補取り下げの大きな要因だったと証言する。
地元の立憲関係者も「上のほう=党幹部」への怒りが結束を呼び込んだと断言した。騒動はメディアの注目も集め、報道は増えた。無党派層も関心を持ったとみられ、東京8区の投票率は都内トップの61.03%まで伸びた。
ここが肝心なところだが、どれも立憲側が意識的に仕掛けたものではなく、全て偶然にしてそうなってしまったということだ。彼らは幸運だった。
「でも、騒動を大きな視点で見れば、得をしたのは与党だ。野党が選挙区ひとつ調整できないと知らしめてしまったからな」
「結果はもう見えてくるな」とコーヒーを飲み干し、斎藤は予言者然と言い切った。
「政権交代はない。野党は自らチャンスを逃したんだ。スローガンからしてダメだろ。共産党の『政権交代』は二番煎じ。立憲の『変えよう』も既視感がある。太郎は『れいわニューディール』か。選挙ポスターにカタカナはセンスがない。それなら維新の改革を軸にした押し出しのほうがはるかに有権者の心をつかむ。維新は嫌いだが、今回はかなり票を伸ばすよ」