最新記事

フィリピン

マルコス=ドゥテルテの2世コンビで政権目指す サラ・ドゥテルテ、強力タッグで副大統領に出馬表明

2021年11月15日(月)18時40分
大塚智彦

フィリピンでは10月8日までが正副大統領の立候補締め切りだが、11月15日までは政党の候補者を入れ替える形であれば変更が認められるルールとなっているため、ギリギリでの政党加入、立候補者変更という手続きで出馬が決まった。地元マスコミの中にはこうした一連の動きを「ウルトラC」と表現したところもある。

11月11日には共通の知人の結婚式に参列したサラ市長とボンボン氏が盛装姿で腕を組んで歩く姿が地元メディアで報じられており、ボンボン氏とペアを組んでの出馬の可能性が極めて高いとみられていた。

背景にマルコス一族との接近、信頼

戒厳令を布告して反政府活動家や学生を弾圧したマルコス元大統領の暗黒時代を知るフィリピン人にとってはその長男であるボンボン氏の大統領就任は何としても阻止したいところだ。

しかしドゥテルテ大統領は2016年の大統領就任後に、歴代大統領が人権派や民主化勢力の反発を懸念して回避してきたマルコス元大統領の遺体の英雄墓地への埋葬を実現させた。

この"長年の懸案"を解決したことで、ドゥテルテ大統領とマルコス一族は信頼しあう極めて親しい関係になったといわれている。ボンボン氏はドゥテルテ大統領が進めてきた強硬な麻薬犯罪対策を継続する意思も示しており、ドゥテルテ政治の継承を公約のひとつに掲げている。

ドゥテルテ大統領は大統領職を辞した後に、麻薬犯罪捜査の現場で警察官による司法手続きに寄らない容疑者射殺──いわゆる「超法規的殺人」やメディア弾圧など在職中の「問題」に対して訴追される可能性が指摘されている。こうした公訴や社会的非難を交わすこともボンボン氏が大統領に選出されれば可能になるとみられ、サラ市長とのペアはドゥテルテ大統領にとっては「理想的な後継政権」となることは間違いないだろう

戦略練り直し迫られる与野党

一方、サラ市長の出馬を当てにして大統領候補に「当て馬」を用意して、副大統領候補にはドゥテルテ大統領の腹心であるクリストファー・ボン・ゴー上院議員を届け出ていた与党PDPラバンは早急に戦略の見直しを迫られることになるだろう。

PDPラバンが大統領候補として届け出たロナルド・デラ・ローサ上院議員はサラ市長が出馬するならいつでも立候補を譲るとの姿勢を示しており、同党がサラ市長を大統領候補として迎える準備が整っていることを内外に明らかにしていたのだ。

また「強力なペア出現」で政権交代を狙う野党の統一候補であるレニー・ロブレド副大統領の陣営、さらには「反ドゥテルテ」を掲げて大統領選に出馬しているプロボクサーのマニー・パッキャオ氏らがどのように今後選挙戦略を練り直すのか? フィリピン大統領選は「人気絶大のサラ市長」の参戦でさらに過熱していくのは確実だ。


otsuka-profile.jpg[執筆者]
大塚智彦(フリージャーナリスト)
1957年東京生まれ。国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞社入社、長野支局、東京外信部防衛庁担当などを経てジャカルタ支局長。2000年産経新聞社入社、シンガポール支局長、社会部防衛省担当などを歴任。2014年からPan Asia News所属のフリーランス記者として東南アジアをフィールドに取材活動を続ける。著書に「アジアの中の自衛隊」(東洋経済新報社)、「民主国家への道、ジャカルタ報道2000日」(小学館)など

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正

ワールド

イスラエル政府、ガザ停戦合意を正式承認 19日発効

ビジネス

米国株式市場=反発、トランプ氏就任控え 半導体株が

ワールド

ロシア・イラン大統領、戦略条約締結 20年協定で防
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 3
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさかの密航者」をCAが撮影...追い出すまでの攻防にSNS爆笑
  • 4
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 5
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 6
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者…
  • 7
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 8
    「ウクライナに残りたい...」捕虜となった北朝鮮兵が…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    雪の中、服を脱ぎ捨て、丸見えに...ブラジルの歌姫、…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 5
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 6
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 7
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 10
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    ロシア軍は戦死した北朝鮮兵の「顔を焼いている」──…
  • 7
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 8
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中