特定の「誰か」を猛烈に攻撃する善良な市民たち...集団心理の脅威を名著に学ぶ
bee32-iStock
<ギュスターヴ・ル・ボン『群集心理』など歴史に残る3冊の名著が教える、他人に流される心理と、大衆の中で自分という「個」を保つために必要なもの>
「自分は流行りものなんかになびかない」と思っていても、つい売れている商品を手に取ってしまう。「自分の意見をしっかりもちなさい」と言われても、強い言葉を頼りがち。物や情報の溢れている現代のほうがその悩みは深いように思われていますが、100年以上前の人たちも、「流される普通の人びと」の行動について悩んでいました。
「出る杭は打たれる」日本では、「郷に入っては郷に従」いつつ、波風立てないように"うまくやる"のが処世術と思われているところがありました。
そうすることが結果的に、和を乱さず、効率的な集団運営をしていく力になってきたとも言えます。
ただ、それだけで「自分自身の人生」が本当に豊かになっていくかは疑問です。
「流される」一方ではない生き方をつかむには、まず「なぜ流されるのか」への理解を深めることが先決かもしれません。
「知」の名著から社会や人生のヒントを探り、近寄りがたい古典的ベストセラーを、いまのあなたに活かしてみませんか?(この記事は、本の要約サービス「flier(フライヤー)」からの転載です)。
知らぬ間に「流されて」います
『群衆心理』
著者:ギュスターヴ・ル・ボン
翻訳:櫻井成夫
出版社:講談社
flierで要約を読む
ちょっと自分の行動を思い返してみましょう。
・オリンピックなどの国際的なスポーツ大会が開催された時、熱狂して観戦している。
・話題になっていて、友だちの多くが観ている映画やドラマは、自分も観るようにしている。
・知らないお店に行くときには、食べログなどのサイトで評価が高いかどうかを調べる。
・SNSでたくさんの人がシェアしている意見は、きっと正しいのだろうと感じる。
これらについて、一度も経験したことがない人はあまりいないのではないでしょうか?
ちょっとしたきっかけで、さまざまなバックグラウンドをもつ多くの人たちが、同じ方向を向いてしまう。ギュスターヴ・ル・ボンの『群衆心理』は、そうした集団精神のあり方を1世紀以上も前に明らかにした本です。スマホもインターネットもない時代に、いまのSNSの雰囲気を先取りしているかのような内容。なんとあのヒトラーも、そのル・ボンの論理を「悪用」して、人心を掌握したと言われています。
影響力のある人物や(ネットを含む)メディアは、「断言」「反復」「感染」という方法を用いる、といいます。たとえ論拠に乏しくても、強い断言をくり返されると、見識のある人々でさえ強く影響を受けてしまうのです。思想の方向性にかかわらず、成功した人間や英雄的な行動をとった人などの威厳は、特に強い「感染力」をもちます。