習近平が喜ぶ岸田政権の対中政策
中国問題グローバル研究所の台湾代表の研究員は、台湾がどれだけTPPに加盟したがっているかを切々と綴ってくれた。TSMC日本工場建設への決意は、その表れの一つであると言っても過言ではない。
半導体不足に苦しむ日本は、車などに必要な22~28nm程度の半導体製造に投資する。これを受け入れたからには、9月24日のコラム<中台TPP加盟申請は世界情勢の分岐点――日本は選択を誤るな>で書いたように、日本は何が何でも台湾を先にTPPに加盟させるべく力を注がなければならない。
しかし、そのようなことをしたら、習近平の激怒を招くことは論を俟(ま)たない。さまざまな脅しをしてきて、日本を震え上がらせるようなことくらいは臆面もなくやるだろう。
問題は、岸田首相が果たして、習近平の激怒と脅迫を恐れずに、台湾を優先的にTPP加盟させるべく積極的に動くか否かだ。
岸田首相にそれだけの度胸があるとは思えないのである。
突然中国批判をしてみせる公明党
10月7日のコラム<「公明党から国交大臣」に喜ぶ中国――「尖閣問題は安泰」と>にも書いたように、公明党の媚中ぶりは世界的に有名だ。その公明党と組んで、国交大臣には必ず公明党議員に就いてもらい、「尖閣問題」に関して「遺憾」としか言わない口実を公明党に求めるという、実に「小賢(こざか)しい」真似を自民党はやり続けてきた。
ところが何と、選挙のために、公明党が突如、中国批判をして見せたのだ。
そのような付け焼刃(やきば)的なことに国民が騙されるとでも思っているのだろうか?
10月26日の「デイリー新潮」が<公明党が初めて中国批判をした背景 「媚中」に自民党内部から不満、選挙対策の側面も>という報道の中で「ハリボテの対中批判は通用するか」と書いているが、まさにその通りだ。
ウイグルの人権問題を取り締まることができるマグニツキー法制定の邪魔をしたのは公明党であることは筆者自身がリアルタイムで関連の自民党議員から逐次報告を受けている(6月16日のコラム<G7「対中包囲網」で賛否両論、一時ネットを遮断>の最後のパラグラフ【◆今国会で成立しなかった「日本版マグニツキー法」】に書いた通りだ)。
岸田首相の最大にして唯一の功績は、あの親中派の二階元幹事長を追い出したことだろう。それ以外は評価できないし、信用もできない。
果たして自公連立をしているためなのか、それとも岸田首相自身の考え方なのかは分からないが、少なくとも野党が連立を組んでいることを「野合」と批判する資格はないだろう。
※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。
[執筆者]遠藤 誉
中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士
1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。中国問題グローバル研究所所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。著書に『裏切りと陰謀の中国共産党建党100年秘史 習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』(ビジネス社、3月22日出版)、『ポストコロナの米中覇権とデジタル人民元』、『激突!遠藤vs田原 日中と習近平国賓』、『米中貿易戦争の裏側 東アジアの地殻変動を読み解く』,『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』、『卡子(チャーズ) 中国建国の残火』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『中国がシリコンバレーとつながるとき』など多数。