習近平が喜ぶ岸田政権の対中政策
つまり、日本の外務省にある「両首脳は両国間の経済・国民交流を後押ししていくことで一致しました」は、やや不正確なのである。
これはあくまでも岸田首相が習近平に対して積極的に自ら言った言葉で、「両国が一致した」と書くと、岸田首相が習近平に自らそのように呼び掛けた事実が見えなくなってしまう。
しかし、ここは非常に重要なポイントだ。
中国の思うつぼ
岸田首相は対中政策に関する多くの日本のメディアの取材に対して、概ね以下のように回答している。
●安定が重要。
●首脳間の対話を含めて対話こそが重要。
●政治外交だけでなく、経済や文化を含めた日中交流が重要。
●言うべきことは言う。
習近平にとって、これほど喜ばしい又とないと言っても過言ではないほど、ありがたい姿勢だ。
最後の「言うべきことは言う」などは「言わない」に等しく、ただ口頭で「遺憾である」と言ってみても、具体的行動はしないのだから、中国にとっては痛くも痒くもない。
それよりも「対話が重要である」こと、さらには「経済や文化を含めた日中交流が重要である」ことなどは、まさに、習近平が主張したい内容で、それによって日本の政財界を中国に引き付けようとしている最中ではないか。
台湾TPP加盟で試される岸田首相の度胸
岸田首相は経済安全保障担当大臣のポストを内閣官房に新たに設け、省庁は所管せずに総理大臣を補佐する。「経済安全保障」を重視するのは良いことだとしても、それが真の対中政策として機能するか否かに関しては非常に疑問だ。
なぜなら上述したように岸田首相の対中政策の基本姿勢がそもそも習近平を喜ばす方向でしかないので、どんなに形式を整えてみたところで、経済安全の「防衛力」にはなり得ないだろう。
岸田首相の本気度が試されるのは、台湾のTPP(正確にはCPTPP=環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定)加盟だ。
現在の議長国は日本なので、何としてもTPPに加盟したいと思っている台湾は、10月14日、台湾の半導体製造大手TSMCの日本工場を建設すると発表した。
まだトランプ時代の2020年5月に、トランプの要請でTSMCを日本に誘致する話が出たことがあり、2021年2月の時点でもつくば市に誘致する話が出ていた。しかしそれらはあくまでも「研究開発」のみで、実際の半導体製造という生産ラインまでは導入する話ではなかった。しかし今般は実際の生産ラインを整備する。
と言っても最先端の半導体を製造するのではなく、22~28nm(ナノメートル)のプロセッサーという、何世代も前の半導体で、投資規模は約8,000億円の内の半分である4,000億円を日本政府が出資するという。