「羊毛は羊の体に生える」と「バラマキ」を戒める中国――日本の「成長と分配」は?
しかもGDP自身もひたすら成長しているので、果たして「羊毛は羊の体に生える」という考え方のために債務が低いのか、それともGDPが成長しているために債務を増やさないで済んでいるのか、なんとも言えないところだ。
どうやら最近は、一部に現代貨幣理論(Modern Money Theory=MMT)を強く信じる人たちがいて、 「独自通貨を持つ国は債務返済のための自国通貨発行額に制約を受けないため、借金をいくらしても財政破綻は起きない」主張しているようである。しかし、いったん財政規律や中央銀行への信認が失われてしまうと、深刻なインフレと経済の大混乱が発生する恐れがあるとのこと。
アメリカの中央銀行に当たるFRB(The Federal Reserve Board)(連邦準備制度理事会)のパウエル議長は22日、まさに「供給網の混乱による供給制約とインフレの悪化(来年に入ってもインフレ率の上昇が続く可能性)」に関して懸念を示したとアメリカのWall Street Journalなどが報道している。
図1のアメリカをご覧いただくと、日本ほどではないにせよ、やはり政府債務がGDPを上回っていて、特に最近はコロナのせいで緊急財政出動をしているからだろうと思うが、GDPとの差が大きくなっている。
中国は、「羊毛は羊の体に生える」という論理を基本としていて、おしなべて現代貨幣理論(MMT)に否定的だ。たとえば『中国金融』という雑誌に、中国の中央銀行に相当する中国人民銀行の政策司の孫国峰司長が<現代貨幣理論への批判>を書いている。
矢野事務次官の「バラマキ合戦」批判
日本では財務省の矢野康治事務次官が月刊誌『文芸春秋』11月号に寄稿し、コロナの経済対策にまつわる与野党の政策論争を「バラマキ合戦」と批判し、「このままでは国家財政が破綻する可能性がある」と訴えた。
矢野氏の論評に対して、岸田首相は不快感を示し「協力してくれないと困る」と言ったようだが、しかし経済同友会は「100%賛成」と評価している。興味深いのは、鈴木財務大臣が内容的に「問題はない」という見解を示したことだ。
どうやら日本の財務省や経済界は中国の「羊毛は羊の体に生える」派で、岸田首相は「羊毛は羊の体に生えるとは限らない」とする派なのだろう。