最新記事

中国

現地取材:中国から外国企業が「大脱出」する予兆が見え始めた

EXITING CHINA?

2021年10月16日(土)16時15分
メリンダ・リウ(本誌北京支局長)

211019p22_mel04.jpg

外資にとって中国は簡単に捨てられる市場ではないが(2020年、北京のモーターショー) VCG/GETTY IMAGES

一方で、中国経済は今年に入ってコロナ後の力強い回復基調を見せたものの、今は足踏み状態に陥っている。国内消費が期待されたほど伸びていないのは、家計所得、特に低賃金の出稼ぎ労働者の所得が伸び悩んでいるためだろう。

「ほとんど階級闘争」の言説

上海在住の日本企業の幹部は、問題の根源には極端に大きい貧富の格差があると話す。「上海では配達員が10元(約170円)で昼食を済ます横で、ビジネスマンが500元を惜しみなくはたいて豪勢な食事をしている。これは危険な状況だ」

この幹部が指摘するように、中国では所得格差の指標であるジニ係数がアジア諸国の平均の0.34よりはるかに高く、アメリカの0.41よりもさらに高い0.47前後で、「極めて不平等な状態」だ(1.0が最も不平等な状態)。

彼が恐れる最悪のシナリオは、経済が不安定になるかバブルがはじけて低所得層の不満が爆発することだ。当局は民衆の怒りをそらすため外国人を格好の標的に仕立てるだろう。

既に持てる者と持たざる者の対立をあおるような政治的レトリックが飛び交っている。最近ブルームバーグ主催のフォーラムで、PR会社アプコの中国法人会長、ジム・マクレガーは左派ブロガーの李の主張を問題にした。

李は、最近の中国政府の規制強化の動きを文化大革命を彷彿させる「社会主義の本質への回帰」だと賛美したのだ。「富豪は階級の敵だと言わんばかりの......ほとんど階級闘争のような」言説だと、マクレガーは危惧する。

もっとも、今の状況を毛沢東時代の文革に例えれば、重要な違いを見逃すことになる。「毛は(集団的な指導)体制を壊して権力を一手に握るため、混乱を引き起こそうとした」と、調査会社ガベカル・ドラゴノミクスの共同創業者アーサー・クローバーは言う。それに対し「習は儒教的な国家の復興を目指している」というのだ。

文革のトラウマゆえ、中国の人々は混乱よりは極端な儒教的統治のほうがましだと思っているのかもしれない。どちらも、中国の持続的な成長を支える創造性とイノベーションを育むには役立ちそうにないが。

20250408issue_cover150.png
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年4月8日号(4月1日発売)は「引きこもるアメリカ」特集。トランプ外交で見捨てられた欧州。プーチンの全面攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ゼレンスキー氏、英仏と部隊派遣協議 「1カ月以内に

ワールド

トランプ氏の相互関税、一部発動 全輸入品に一律10

ワールド

米石油・ガス掘削リグ稼働数、2週連続減少=ベーカー

ワールド

台湾の安全保障トップが訪米、トランプ政権と会談のた
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
メールアドレス

ご登録は会員規約に同意するものと見なします。

人気ランキング
  • 1
    ひとりで海にいた犬...首輪に書かれた「ひと言」に世界が感動
  • 2
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 5
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 6
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 7
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2…
  • 8
    5万年以上も前の人類最古の「物語の絵」...何が描か…
  • 9
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 10
    あまりにも似てる...『インディ・ジョーンズ』の舞台…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中