最新記事

中国

管理職の中国出張は危険...外資企業を待つ共産党「人質外交」の罠

China No Longer Safe to Visit

2021年10月7日(木)18時00分
エリザベス・ブラウ(アメリカン・エンタープライズ研究所研究員)

中国は違う。それどころか、中国は欧米企業が進出したい国だ。19年だけでも、中国に投資した外国企業は4万888社もある。このうち小売業が約1万4000社、製造業が約5400社に上る。

その中国が、人質外交に前向きになった今、欧米企業は従業員の派遣を再考するだろう。もちろん破天荒な経営者の一部は、そんなリスクを冒してでも、中国進出をもくろむかもしれない。なにしろ、そこには巨大市場があるし、自社の従業員が人質外交のターゲットになる確率は低い。

中国出張はやめるべき

それでも、経営者は従業員に対して法的な善管注意義務がある。また、従業員を危険にさらしたとなれば(ましてやリスクを分かっていながら)、業績がダメージを受けるだけでなく、会社のブランドに傷が付く恐れもある。

「もし私が大手企業または政治的にセンシティブな企業のCEOだったら、管理職に中国出張はさせない」と、中国で20年にわたり事業を展開してきた企業の上級幹部は言う。「オーストラリア、イギリス、アメリカの企業の大株主やオーナー、CEO、CFO、上級顧問などは、特に慎重になるべきだろう」

「本国で大規模な公共事業を請け負っている企業もそうだ。テクノロジー企業や、主要原材料を生産する企業、それに軍需企業だ。しばらくは、危険過ぎる。香港も心配だ」

実際、従業員を危険国に派遣した結果、会社が法的責任を問われたケースはある。

15年にリビアでイタリアの石油プラント会社ボナッティのイタリア人技師4人が、過激派組織「イスラム国」(IS)に拉致された事件に関連して、イタリアの裁判所は19年、ボナッティのCEOと2人の取締役、そしてリビア事業部門のトップの責任を認定。4人全員が司法取引を行い、執行猶予付きの有罪判決を受けた。

中国と欧米諸国の対立が鮮明になり、中国当局が人質外交に意欲を示すようになるなか、欧米企業の経営者は重大な選択を迫られている。確かに自社の従業員が人質になる確率は低いかもしれないが、そのリスクは常に存在する。そして万が一、そのリスクが現実になれば、人質の従業員は中国の見せしめ裁判に引きずり出されるだろう。

そんなことになれば、その会社の名前は何カ月も、ひょっとすると何年もニュースに取り上げられる。そして経営幹部は刑務所送りになるかもしれない。とりわけアメリカの企業なら、その訴訟は破滅的な結果をもたらす可能性すらある。

もちろん中国(香港を含む)に出張したり、駐在したりするビジネスパーソンはこれからもいるだろう。だが、今後その数は激減する可能性が高い。それは結果的に、中国経済に大きな打撃となるはずだ。

From Foreign Policy Magazine

20250408issue_cover150.png
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年4月8日号(4月1日発売)は「引きこもるアメリカ」特集。トランプ外交で見捨てられた欧州。プーチンの全面攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

サントリーなど日本企業、米関税に対応へ 「インパク

ワールド

韓国、米関税で企業に緊急支援措置策定 米と交渉へ

ビジネス

総務省、フジHDに行政指導 コンプラ強化策の報告要

ビジネス

ECB高官、トランプ関税は世界経済の安定脅かすと警
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    あまりにも似てる...『インディ・ジョーンズ』の舞台になった遺跡で、映画そっくりの「聖杯」が発掘される
  • 2
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2…
  • 5
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 6
    アメリカで「最古の銃」発見...いったい誰が何のため…
  • 7
    イラン領空近くで飛行を繰り返す米爆撃機...迫り来る…
  • 8
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 9
    博士課程の奨学金受給者の約4割が留学生、問題は日…
  • 10
    「最後の1杯」は何時までならOKか?...コーヒーと睡…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 5
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 6
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2…
  • 7
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 8
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 9
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 10
    あまりにも似てる...『インディ・ジョーンズ』の舞台…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 3
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中