最新記事

米中競争

「AIで中国に負けた」米国防総省幹部が抗議の辞任

Pentagon Official Resigns Over Belief China Has Won AI Battle

2021年10月12日(火)17時43分
ジャスティン・クラワンズ
ペンタゴンのロゴ

国防総省は、倫理など意に介さず開発に邁進する中国のスピードに負けた? Al Drago- REUTERS

<アメリカもいつの間にかデジタル後進国になっていた? アメリカの複数の政府機関のサイバー防衛能力は「幼稚園レベル」で人材も力不足と、最高ソフトウエア責任者のポストを辞した元幹部は言う>

米国防総省初の最高ソフトウェア責任者を辞任したニコラス・シャラン(37)が、アメリカは人工知能(AI)技術の開発競争において、中国に敗れたと指摘。自分が国防総省を辞めたのは、アメリカの技術革新が遅いことに対する抗議のためだったと明かした。

シャランは英フィナンシャル・タイムズ紙のインタビューに応じ、中国は新興技術の開発が進んでおり、今後数十年のうちに数多くの分野――特にAIと生物工学――で世界の覇権を握るだろうとの見方を示した。

「今後15年から20年は、我々が中国との競争に勝てる見込みはない。これは私個人の意見の域を超えており、もう勝負はついている」とシャランは同紙に語り、さらにこう続けた。「(中国との競争において)今後、戦争が必要になるかどうかは分からない」

シャランは、アメリカの複数の政府機関のサイバー防衛能力は「幼稚園レベル」だと批判。実務経験をほとんど持たない多くの高官に、サイバーセキュリティ―関連の各種プログラムの運営が任されているとも指摘した。

また彼は、アメリカの技術開発が遅れていることの一因が、大手テック企業にあるとも批判。AIの活用をめぐる倫理上の問題を盾にグーグルなどの米大手企業が米政府への協力に消極的だったと語った。その一方で、中国のテック企業は倫理など意に介さず、AI分野に「巨額の投資」を行っているとも述べた。

「アメリカと同盟国の子どもたちに未来はない」

2018年8月から米国防総省の最高ソフトウェア責任者を務めていたシャランは、9月にビジネス向けソーシャルメディアのリンクトインへの投稿の中で辞任を発表。技術開発競争において、アメリカが中国に大きく後れを取っていることに抗議するためだと述べていた。

また彼は、アメリカは中国の急速な技術革新ペースに追いつくことはできないだろうとの見方も示した。

「中国がアメリカよりもずっと優位に立つようになれば、アメリカとその同盟諸国の子どもたちに勝ち目はない」と彼は言う。「中国の成長と勤勉な国民に対抗することが無理ならば、アメリカは彼らよりも賢く、より効率的に動き、機敏かつ積極的な姿勢で革新に取り組まなければならない。アメリカは常に先を歩き、世界をリードしなければならない。後塵を拝することは許されない」

シャランはフィナンシャル・タイムズに対して、アメリカが技術開発で中国に負けている可能性について、今後数週間のうちに連邦議会で証言を行う予定だと語った。報道によれば、証言の中では機密扱いの情報についても言及するものとみられる。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏メディア企業、暗号資産決済サービス開発を

ワールド

レバノン東部で47人死亡、停戦交渉中もイスラエル軍

ビジネス

FRB、一段の利下げ必要 ペースは緩やかに=シカゴ

ワールド

ゲーツ元議員、司法長官の指名辞退 売春疑惑で適性に
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 2
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱が抜け落ちたサービスの行く末は?
  • 3
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 4
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 5
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 6
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 7
    ウクライナ軍、ロシア領内の兵器庫攻撃に「ATACMSを…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    若者を追い込む少子化社会、日本・韓国で強まる閉塞感
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 4
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 7
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 8
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 9
    メーガン妃が「輝きを失った瞬間」が話題に...その時…
  • 10
    中国富裕層の日本移住が増える訳......日本の医療制…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 9
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 10
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中