実は英国もアイルランドも、そこまで北アイルランドを求めていなかった
アイルランド共和国と北アイルランドの国境に設置された道路標識 CLODAGH KILCOYNEーREUTERS
<誕生100周年を迎えた北アイルランド。アイルランド共和国との統一機運は高まっているとされるが、各国の国民たちの本音は?>
イギリスとアイルランド共和国の政界・宗教界の指導者たちは10月21日、北アイルランドの誕生100周年を記念する礼拝に参加するため、同地域アーマー県の教会に集まった。だが、この地域が次の100年もイギリスの一部として存続するかどうかは不透明だ。
アイルランド独立戦争後の1921年、英政府とアイルランドの革命勢力との妥協の産物として誕生した北アイルランドの地位は、何世代にもわたり論争の的となってきた。
最近もブレグジット後の扱いが問題となっている。この地域の交易条件を定めた北アイルランド議定書をめぐるイギリスとEUの対立は、イギリスにおける北アイルランドの地位に根本的な問いを突き付けるものだ。
先祖が北アイルランド出身のバイデン米大統領も、遠くアメリカからこの問題に首を突っ込んだ。ニューヨーク・タイムズ紙によると、バイデンは9月のジョンソン英首相との正式な首脳会談まで待てず、直前の1対1の話し合いでこの話を切り出したという。
南のアイルランド共和国は、100周年に複雑な思いを抱いている。この国の2大政党は100年前の内戦では互いに敵対する陣営だったが、2020年に初めて連立パートナーとなった。
IRAの流れをくむ党が最も人気
同国の2大政党である共和党と統一アイルランド党は、南北アイルランド統一を党是とするシン・フェイン党の脅威に直面している。シン・フェイン党はもともとカトリック系過激組織アイルランド共和軍(IRA)の政治部門だったが中道左派の政治的立場を打ち出し、前回の選挙で最多得票を獲得。最新の世論調査で2位に10ポイント差をつけ、最も人気のある政党に躍り出た。
この微妙な政治状況を考慮して、100周年の礼拝にはアイルランド共和国から首相ではなくコベニー外相が出席した。国家元首のヒギンズ大統領は、このイベントは政治色が強過ぎると判断して招待を辞退した。イギリスのエリザベス女王も出席予定だったが、医師の指示で自宅待機になった。
ブレグジットをきっかけに強まる統一の動きと人口動態の変化を考慮すると、北アイルランドが次の100年も存続できる可能性は低そうだ。