最新記事

ロシア

ロシア下院選は「無風」にあらず、強まる議会の意義と若者世代の存在感

Putin’s Party Wants a Big Win

2021年9月17日(金)18時06分
ジェフ・ホーン(研究者)、シム・タック(アナリスト)

210921P36_RSA_02.jpg

ロンドンのロシア大使館前に集まったナワリヌイ支持者 HENRY NICHOLLSーREUTERS

統一ロシアが使う「ムチ」は、訴訟や嫌がらせなど対立候補の出馬や選挙運動を妨げるあの手この手の策謀だ。統一ロシアは、長年議会内に存在し、自分たちが手なずけてきた体制内野党の候補には手出しをしないが、既成野党と一線を画す新世代の活動家には敵意をむき出しにする。

ムチの最たるものは収監中の反体制派指導者アレクセイ・ナワリヌイの率いる団体を「過激派組織」に認定した措置だ。これによりナワリヌイとその支持者は、選挙運動はおろか集会やネットを通じた情報発信もできなくなった。

反体制派の出馬を妨げる主要な障壁はほかにもある。候補者を擁立する政党は合法と見なされなければならないが、選挙管理委員会が公正とは程遠い現状では、まずそれが関門となる。たとえ合法と見なされても、弱小政党が議席を得るのは容易ではない。得票率が5%に達しなければ、比例区(全国区)の議席は配分されない。

無所属でも小選挙区には立候補できるが、そのためにはその選挙区の選挙人1万5000人以上の署名を提出しなければならない。これをクリアするのは難しい。反体制派を支持したとなると嫌がらせを受けかねず、多くの人が署名を渋るからだ。

反体制派にとっては「団結」が課題

とはいえ立候補のハードルなどより、反体制派が抱えるはるかに大きな問題がある。それは足並みの乱れだ。反体制諸派を結び付けているのは「打倒統一ロシア」の一点のみ。それを除けば、政策も政治理念もてんでばらばらだ。

ナワリヌイが当局の標的にされたのは、彼がソ連時代の反体制派であるアンドレイ・サハロフやボリス・エリツィンのように反体制諸派を結集させ、統一戦線を組める指導力を持っているからだ。

ナワリヌイに「過激派」のレッテルが貼られた今、野党は結集軸を失ったが、活動がしぼんだわけではない。無党派の活動家や既成野党の若手メンバーが統一ロシアの事実上の一党支配を崩すべく戦いを続けている。今回の選挙で彼らは少なくとも数議席を確保できるかもしれない。人々の生活に密着した政策を打ち出せば地方選でも一定の勝利をつかめるだろう。それでも野党陣営が深く分断されたままでは、現状を変えられない。

結局のところ今回の選挙も「出来レース」に終わるだろう。だが潮目が変わったのは明らかだ。プーチン肝煎りの与党が楽々と選挙に勝てる時代は終わった。ロシアの国内政治はどこに向かうのか、ここ当分目が離せそうにない。

From Foreign Policy Magazine

202412310107issue_cover150.png
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2024年12月31日/2025年1月7日号(12月24日発売)は「ISSUES 2025」特集。トランプ2.0/AI/中東&ウクライナ戦争/米経済/中国経済…[PLUS]WHO’S NEXT――2025年の世界を読む

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

カナダ新財務相ら、トランプ氏側近とフロリダで会談へ

ワールド

習近平国家主席、2025年にロシア訪問─ロシアの駐

ワールド

中国工業部門利益、11月前年比-7.3% マイナス

ワールド

韓国国会、きょう首相弾劾訴追案採決か 「正常化の道
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2025
特集:ISSUES 2025
2024年12月31日/2025年1月 7日号(12/24発売)

トランプ2.0/中東&ウクライナ戦争/米経済/中国経済/AI......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊」の基地で発生した大爆発を捉えた映像にSNSでは憶測も
  • 2
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3個分の軍艦島での「荒くれた心身を癒す」スナックに遊郭も
  • 3
    なぜ「大腸がん」が若年層で増加しているのか...「健康食品」もリスク要因に【研究者に聞く】
  • 4
    オレンジの閃光が夜空一面を照らす瞬間...ロシア西部…
  • 5
    「とても残念」な日本...クリスマスツリーに「星」を…
  • 6
    「腹の底から笑った!」ママの「アダルト」なクリス…
  • 7
    わが子の亡骸を17日間離さなかったシャチに新しい赤…
  • 8
    ウクライナの逆襲!国境から1000キロ以上離れたロシ…
  • 9
    日本企業の国内軽視が招いた1人当たりGDPの凋落
  • 10
    滑走路でロシアの戦闘機「Su-30」が大炎上...走り去…
  • 1
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 2
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が明らかにした現実
  • 3
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊」の基地で発生した大爆発を捉えた映像にSNSでは憶測も
  • 4
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 5
    ウクライナの逆襲!国境から1000キロ以上離れたロシ…
  • 6
    「腹の底から笑った!」ママの「アダルト」なクリス…
  • 7
    おやつをやめずに食生活を改善できる?...和田秀樹医…
  • 8
    9割が生活保護...日雇い労働者の街ではなくなった山…
  • 9
    オレンジの閃光が夜空一面を照らす瞬間...ロシア西部…
  • 10
    なぜ「大腸がん」が若年層で増加しているのか...「健…
  • 1
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 2
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が明らかにした現実
  • 3
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊」の基地で発生した大爆発を捉えた映像にSNSでは憶測も
  • 4
    ロシア兵「そそくさとシリア脱出」...ロシアのプレゼ…
  • 5
    ロシア軍は戦死した北朝鮮兵の「顔を焼いている」──…
  • 6
    半年で約486万人の旅人「遊女の数は1000人」にも達し…
  • 7
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 8
    「炭水化物の制限」は健康に問題ないですか?...和田…
  • 9
    ミサイル落下、大爆発の衝撃シーン...ロシアの自走式…
  • 10
    コーヒーを飲むと腸内細菌が育つ...なにを飲み食いす…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中