ロシア下院選は「無風」にあらず、強まる議会の意義と若者世代の存在感
Putin’s Party Wants a Big Win
ロシアの多様なエリートの選挙活動の「装置」である統一ロシアは、党内に相反する政治的要求がひしめいて絶えず緊張状態にある。議席数が減るほど、さまざまな派閥に分裂し、融通が利きにくくなって、自分たちの要求に応じなければ支持しない、という駆け引きが増えかねない。
そうした派閥主義を機に、共産党など体制内野党がわが道を行き、与党への支持が「是々非々」になる可能性もある。体制内野党は一枚岩の野党勢力というより、むしろ党員と選挙区のための圧力団体として活動している。
これらの政党が与党が弱体化しているのを察知し、将来の選挙で各自の立場を強化するため与党と距離を置く可能性も高い。
統一ロシアが駆使するアメとムチ
これらのさまざまな試練に、統一ロシアは「アメとムチ」のアプローチで対抗している。「アメ」としては、腐敗した地方政治家の更迭、さらには逮捕も辞さず、政府の迅速な対応を印象付ける一方、国民に不評な人物を要職から外し、より広くアピールできる人物を起用している。
徐々に権力を失ったドミトリー・メドベージェフ前大統領がいい例だ。メドベージェフは12年5月の大統領の任期満了後は長く首相を務めたが、20年1月に退任。実務派のテクノクラート(専門知識を持つ技術官僚)、ミハイル・ミシュスチンが新首相に就任した。メドベージェフは統一ロシア党首の座にとどまっているものの、党の比例代表制の全国区名簿からは外された。
代わりに名簿のトップにはセルゲイ・ショイグ国防相とセルゲイ・ラブロフ外相の名前がある。この2人は対外的にロシアの利益を主張する閣僚として国民に信頼されている。しかも贅沢好きで知られるメドベージェフと比べ、腐敗したイメージはない(ショイグとラブロフは当選しても議員にはならないとみられている)。
メドベージェフは名簿から外されても、党を批判するような発言は控えている。最近のインタビューでは圧倒的に強い与党の存在が政治の安定につながると述べて、統一ロシアへの支持を呼び掛けた。
統一ロシアは経済政策でもイメージアップを図っている。昨年の憲法改正の目玉の1つは社会保障制度の拡充で、年金の物価スライド制などポピュリスト的な措置がいくつも盛り込まれた。プーチン政権も選挙対策として、景気底上げを狙って大型の開発事業に投資し、ミシュスチンの下でより効率的な行政への転換を打ち出すなど、有権者の不満解消に努めている。