所得格差と経済成長の関係──再配分政策が及ぼす経済的影響
2|「所得格差」 が「経済成長」 に及ぼす影響
【1】肯定的な見解 : 所得格差が経済成長を「促進」
経済学では、一般的に「公平性」と「効率性」はトレードオフの関係にあることを想定している。そのため、増税のような課税後所得の分配を公平にするための政策は、労働供給を歪め、資本蓄積を抑制するため、経済成長に悪影響を及ぼすと考えられる。すなわち、高額な課税は勤労意欲の低下を招き、総貯蓄の減少が投資抑制につながる結果、労働供給の減少と資本蓄積の抑制要因となるため、生産にマイナスの効果を及ぼすという考え方だ。一般的に所得の関数として表わされる貯蓄は、所得が増加すると増加し、所得が減少すると減少する関係にあり、追加的な所得の増加に対する貯蓄の割合(限界貯蓄性向)は、所得が増加することで逓増する。そのため、高所得者層における所得の拡大は、総貯蓄が増加することで資本蓄積を促進し、長期的な経済成長を高めると考えられる。また、機会均等が確保されていれば、所得格差は労働意欲や起業家精神を盛り上げるため、経済成長にはプラスの影響が及ぶという考え方もある。
【2】否定的な見解 : 所得格差が経済成長を「抑制」
一方、所得格差が経済成長に否定的な影響を及ぼすとする見方には、低所得者層の借入制約や経済の効率性の低下、社会政治上の不安定化に伴う治安維持や取り締まりのための政府資源の浪費、といった要因が挙げられる。例えば、借手と貸手の間の情報が互いに限定されている場合(情報の非対称性)、または、債権者による債務回収を制限するような制度が取られている場合(制度の不完全性)には、低所得者層は借入制約に直面して、将来的に高いリターンを得られる教育や職業訓練などへの人的投資の機会を失い、経済成長が抑制されるという考え方だ。また、極端な所得格差が低所得者層の不満や怒りを高め、犯罪や暴動、その他の非生産的な活動へとつながり、社会政治上の安定が損なわれて、経済成長が阻害されるとの考え方もある。政策決定においては、ロビー活動やレントシーキングが活発化して、政策が貧弱になり、非効率な政策が実施されることでも、経済成長は阻害されると考えられる。