「典型的な論者を呼んでも、正直退屈」と講演会で打ち明けられた著述家が、「右でも左でもない」を目指す理由
著者は以前、ある講演会の二次会で、主催者に打ち明けられたことがあるそうだ。
「こういう場に典型的な論者を呼んでも、『こういえば君ら喜ぶんだろう?』と見え見えのことしかいわない。これは正直退屈だし、もっとほかの話が聴きたい」と。
そこで主催者は、著作を読んで共感した著者を読んだわけだ。それはつまり、読み手も是々非々の立場を求めていることを意味する。特にネット上では極端な意見ばかりが目立つが、そういう人ばかりではないということだ。
たしかに「右でも左でもない」は空疎に響く。その傾向はとどまるところをしらない。だが、両極化しやすい世界に流されず、バランスよく自由にやっていくためには、これ以外の選択肢はない。(241ページより)
もちろん著者は書き手としての立場からこう主張しているわけだが、これは文筆業者だけに当てはまる話ではない。職種などに関わらず多くの人々に、極端な方向に偏りすぎないバランス感覚が求められているのだ。
その感覚を身に着けることができれば「右でも左でもない」というスタンスに自分なりの重みが加わるのである。
『超空気支配社会』
辻田真佐憲 著
文春新書
(※画像をクリックするとアマゾンに飛びます)
[筆者]
印南敦史
1962年生まれ。東京都出身。作家、書評家。広告代理店勤務時代にライターとして活動開始。現在は他に「ライフハッカー[日本版]」「東洋経済オンライン」「WEBRONZA」「サライ.jp」「WANI BOOKOUT」などで連載を持つほか、「ダ・ヴィンチ」などにも寄稿。ベストセラーとなった『遅読家のための読書術』(ダイヤモンド社)をはじめ、『世界一やさしい読書習慣定着メソッド』(大和書房)、『読んでも読んでも忘れてしまう人のための読書術』(星海社新書)、『人と会っても疲れない コミュ障のための聴き方・話し方』(日本実業出版社)など著作多数。新刊は、『書評の仕事』(ワニブックス)。2020年6月、日本一ネットにより「書評執筆本数日本一」に認定された。