最新記事

BOOKS

「典型的な論者を呼んでも、正直退屈」と講演会で打ち明けられた著述家が、「右でも左でもない」を目指す理由

2021年9月1日(水)17時45分
印南敦史(作家、書評家)

ネット上では極端な意見が目立つが、そういう人ばかりではない

例えば私が強く共感できたのは、「文春オンライン」に寄せられた「それでもわれわれが『右でも左でもない』をめざすべき理由」という文章だ。

現代の日本では左右のイデオロギー対立がますます深まっており、批判の仕方いかんによってすぐに右・左のレッテルが貼られてしまう。どちらにも属さず「右でも左でもない」という姿勢を取ったとしても、風見鶏だと批判されたりする。

どんな立場にいたとしても、いちいちやりにくく、発言もしづらくなっているということだ。しかし、それでも私たちは「右でも左でもない」という構えを捨ててはいけないと著者は主張する。

興味深いのは、それに関するひとつのトピックだ。


 もう四年近く前のことだが、ある編集者に「書き手として、赤旗から聖教新聞まで出られるように」といわれたことがある。そのときはそんなものかと軽く受け流していたが、年々そのことばの重要性を痛感するようになった。現在では完全に座右の銘となっている。(236ページより)

言うまでもなく、両極端なメディアから共に声がかかるくらい独自路線を貫けという意味である。もっと言えば、「右のメディアにも、左のメディアにも出られるようにしろ」ということだ。

私も、これはとても重要だと感じる。

例えば"右認定"された書き手は、右から熱く支持されるいっぽう、左からは攻撃の対象になるだろう。あとから「いや、実はもっと中立的なんだ」と弁解しても、そうした本音は届きにくくなる。

だとすればその書き手が、右の読者にとって心地よく、刺激的なことを書こうという方向に向かっていったとしても不思議ではない。

「右」を「左」に置き換えたとしても同じことが起こるわけだが、いずれにしても健全ではない。特定の立場からしか声がかからなくなることは大きなリスクを伴うし、自由の喪失にもつながる。

だから著者は書き手として、中間を目指すべきだと訴えるのである。


 さまざまな分断の隘路(あいろ)に陥らず、書き手として自由にやっていくためには、どうすればよいだろうか。それは、あらゆる点でバランスを図り、やはり「赤旗」からも「聖教新聞」からも声がかかるように、独自路線を追求する以外にない。
 そうすることで、さまざまな弊害――凡庸な戦前批判または戦前美化を繰り返すことや、ポリティカル・コレクトネスなど大義名分を振り回すこと、また学術用語をちりばめて政治運動をことごとく衒学(げんがく)的に例証することなど――から逃れられる。(240ページより)

「現在が分断にもとづく動員の時代であることは事実なのだから、独自路線を突っ走ることこそ滅びにつながるのではないか」という考え方もあるかもしれない。しかし、そこにこそ本当の希望があるのだ。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

米国株式市場=続伸、堅調な経済指標受け ギャップが

ビジネス

NY外為市場=ドル上昇、米景気好調で ビットコイン

ワールド

中国のハッカー、米国との衝突に備える=米サイバー当

ワールド

COP29、会期延長 途上国支援案で合意できず
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 2
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 3
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでいない」の証言...「不都合な真実」見てしまった軍人の運命
  • 4
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 5
    ロシア西部「弾薬庫」への攻撃で起きたのは、戦争が…
  • 6
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」…
  • 7
    「このまま全員死ぬんだ...」巨大な部品が外されたま…
  • 8
    プーチンはもう2週間行方不明!? クレムリン公式「動…
  • 9
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 10
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 3
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 4
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 5
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 8
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 9
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 10
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 4
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大き…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 7
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 10
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中