最新記事

気候変動

日本は世界で4番目に気候変動のリスクが高い国に 台風・豪雨影響

2021年9月10日(金)20時20分
青葉やまと

前年度調査では日本は高リスク国の1位に REUTERS

<台風や豪雨は国内の問題に留まらず、世界規模の異常気象を代表する例となっていた>

地球温暖化の影響が懸念されるようになって久しいが、今夏はその影響を象徴するかのような出来事が相次いだ。

気温49.5度を記録したカナダ西岸では数百件の制御不能な森林火災が発生し、海ではムール貝が生きたまま半煮えとなった。ニューヨークでは先日、大規模な水害に見舞われ、地下鉄の昇降口に降り注ぐ滝のような雨の動画が出回っている。ヨーロッパでもシチリア島で48度超が報告され、欧州の観測史上最高を記録したほか、各地で山火事が多発している。

国内では気候変動に対する危機感がさほど高いというわけではないが、諸外国の出来事は対岸の火事と見るべきではないのかもしれない。ドイツNGOジャーマンウォッチ(Germanwatch)が今年初めに発表した『世界気候リスク指標2021』において、日本は気候変動のリスクが世界で4番目に大きな国となっている。水害が主な要因のひとつを占めており、気候変動への長期的な取り組みと同時に、これからの台風シーズンにも警戒が求められそうだ。

過去の実災害を、将来のリスクとして評価

気候リスク指標(CRI)は、当該年度に実際に発生した自然災害の被害を分析し、将来のリスクの大きさとして捉えたものだ。ドイツ・ミュンヘン再保険社が提供する世界最大規模の災害データベースをもとに、干ばつや洪水などの異常気象事象による被害を、死者数と経済的影響の両面から評価している。

最新の報告書では、現時点で最も新しい2019年分のデータを基準とした。各国をリスク指標の深刻な順に並べた「2019年に最も影響を受けた10ヶ国」ランキングにおいて、日本は世界180ヶ国中、4番目の高リスク国となった。台風のほか、この年7月に発生した豪雨が大きく影響した。

ワースト10諸国のなかでは日本は、異常気象による人口あたり死者数としてはインドに次いで少ない。一方で経済損失は約290億ドル(購買力平価ベースの換算で約3兆円)となり、この項目で首位のインドに次ぐ規模となった。主に経済的損失の規模が大きかったことで高リスクの判定につながったとみられる。なお、損失額は各国の購買力平価を考慮しているため、物価の高い国で額が過大になるわけではない。

ランキング入りは先進国では日本のみ

日本以外に危険度の高い10ヶ国としては、1位がモザンビーク、2位がジンバブエ、3位がバハマとなっている。4位の日本以降は順に、マラウイ、アフガニスタン、インド、南スーダン、ナイジェリア、ボリビアと続く。うち、モザンビーク、ジンバブエ、マラウイは主に大型のサイクロン「アイダイ」による影響、バハマはハリケーン「ドリアン」による被害が大半を占めた。

レポートをまとめたジャーマンウォッチは本指標を、将来的に異常気象による災害が頻発化・深刻化することを前提として、「各国が警告として捉える」べきだと訴えている。

一般に環境の変化に対しては途上国の方が脆弱な傾向にあり、最新の2019年では先進国からは日本のみがランク入りしている。世界銀行が定義するOECD加盟高所得80ヶ国・地域のうち、トップ10入りしているのは唯一日本となった。報告書は「日本の台風は、高収入国にあっても気候のインパクトがかつてないほど感じられるようになったことを示している」と述べ、先進国における深刻な気候変動の影響を物語る代表例だと位置付けている。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

ルペン氏に有罪判決、次期大統領選への出馬困難に 仏

ビジネス

金、3100ドルの大台突破 四半期上昇幅は86年以

ビジネス

NY外為市場・午前=円が対ドルで上昇、相互関税発表

ビジネス

ヘッジファンド、米関税懸念でハイテク株に売り=ゴー
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 2
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者が警鐘【最新研究】
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 5
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 6
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 7
    3500年前の粘土板の「くさび形文字」を解読...「意外…
  • 8
    メーガン妃のパスタ料理が賛否両論...「イタリアのお…
  • 9
    なぜ「猛毒の魚」を大量に...アメリカ先住民がトゲの…
  • 10
    「関税ショック」で米経済にスタグフレーションの兆…
  • 1
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き詰った「時代遅れ企業」の行く末は?【アニメで解説】
  • 2
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 3
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 4
    【独占】テスラ株急落で大口投資家が本誌に激白「取…
  • 5
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 6
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 7
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】アメリカを貿易赤字にしている国...1位は…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中