最新記事

クーデター

混乱のミャンマー スー・チー氏は21日にも一部容疑で判決か

2021年9月16日(木)21時45分
大塚智彦

スー・チー氏はすべての容疑でそれぞれ最高刑の有罪判決が言い渡されると、服役期間の合計は75年に及ぶとの報道もあり、軍政としては長期の実刑判決を下すことでスー・チー氏の政治生命を完全に絶ち、反軍政の抵抗運動を続ける国民に精神的な打撃を与える狙いがあるのは間違いないとみられている。

コロナ感染検査は陰性

13日の公判に欠席したスー・チー氏の体調に関して弁護団は「車酔いのような状態でめまいや気だるさがあり、立っていることが辛い状況だったことから裁判所に欠席を求め、裁判官もこれを認めたため休廷となった」としながらも「健康状態は決して深刻な状況ではない。おそらく精神的な理由が原因ではないか」との見方を示していた。

その後念のために受けたコロナ感染の検査では、すでにスー・チー氏はワクチン接種を受けていることもあり陰性となり、健康不安への心配はとりあえず払拭された形となった。そして弁護団によると、翌日の14日の公判にスー・チー氏は元気な姿で出廷したといい、国民をひとまず安心させた。

ただ、今年76歳という年齢と2月1日のクーデター発生直後から軍によって身柄を拘束され、以来首都ネピドーの自宅と特別法廷が開かれる裁判所を往復するだけの生活だけに常に健康を心配する声は常に付きまとっている。

市民の武装抵抗に軍政側に焦りか

スー・チー氏の公判では当初、長時間かけて審理を行い、裁判自体を長期化させることで反軍政の抵抗運動を続ける民主勢力のスー・チー氏支持を離反させようとの狙いがあったとされていた。

しかし21日に一部の容疑で判決が言い渡される可能性が出てきたことに、裁判を裏で仕切る軍政、特にミン・アウン・フライン国軍司令官ら幹部に焦りがあるのではないかとの見方も出ている。

というのも9月7日に民主派が組織した「国家統一政府(NUG)」が国民に対して「武装による一斉蜂起」を呼びかけたという事情がある。

その「一斉蜂起指令」を受けた結果、各地で武装市民による軍や軍関連企業の通信タワーや通信ネットワークへの爆破、破壊活動が激化。各地で「国民防衛隊(PDF)」として武装した市民らによる軍兵士や警察官との衝突が増加。兵士や警察官の死者増加も報告されている。

こうした事態を背景に、軍政から「とりあえず早く実刑判決を下すことで軍政への武装抵抗に影響を与えたい」との意向が働いた可能性が、一部とはいえ早期の結審に結び付いたとの観測が有力視されている。

21日に「本当に判決が言い渡されるのか」を含めて、今後のスー・チー氏に対する公判と武装市民や少数民族武装勢力による実質的な内戦状態の成り行きが今後のミャンマー情勢の大きなカギを握るといえるだろう。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

中国軍機14機が中間線越え、中国軍は「実践上陸訓練

ビジネス

EXCLUSIVE-スイスUBS、資産運用業務見直

ワールド

ロシア産肥料を米企業が積極購入、戦費調達に貢献と米

ビジネス

ECB、利下げごとにデータ蓄積必要 不確実性踏まえ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 2

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロシア空軍基地の被害規模

  • 3

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 4

    「500万ドルの最新鋭レーダー」を爆破...劇的瞬間を…

  • 5

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 6

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 7

    「TSMC創業者」モリス・チャンが、IBM工場の買収を視…

  • 8

    中国のコモディティ爆買い続く、 最終兵器「人民元切…

  • 9

    「複雑で自由で多様」...日本アニメがこれからも世界…

  • 10

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 5

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 6

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 7

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 8

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 9

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 10

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 10

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中