タリバン勝利の裏に習近平のシナリオーー分岐点は2016年
上海協力機構は9月1日のコラム<独立の祝砲に沸くタリバンに中国はどう向き合うのか?>にも書いたが、「国境地区における軍事分野の信頼強化に関する協定」(上海協定)の調印を目的に1996年4月に上海で集った上海ファイブ(中国・ロシア・カザフスタン・キルギス・タジキスタンの5ヵ国首脳会議)が前身となっている。このことからもわかるように、中国とロシアが主体の反テロ組織でもあり、NATOに対抗する組織でもある。さらに言うなら、第一回目の会合が上海で開催されたことからもわかるように、スタートは中国が主導している。
協力に感謝したのか、習近平は2018年6月にプーチンに友誼勲章を授与し、プーチンはまた習近平との関係に関して「歴史上、未だかつてないほど中露は緊密だ」と絶賛している。
トランプのノーベル平和賞への渇望を利用か?
一方、アフガニスタンを占領していた肝心のアメリカでは、2016年5月からドナルド・トランプ氏が大統領立候補への選挙活動を開始し、その際に外交問題に関してキッシンジャーの教えを乞うている(詳細は拙著『習近平vs.トランプ』)。キッシンジャーはベトナム戦争を和平交渉で終わらせた功績によりノーベル平和賞を受賞した人物だ。激しいライバル心を抱いていたオバマ元大統領もまた、大統領に就任して間もない2009年10月にノーベル平和賞を受賞している。たかだか2009年4月にプラハで「核なき世界」に関する演説をしただけでノーベル平和賞がもらえるというのなら、自分も解決できていない紛争問題に関して平和的解決策を見つければ、きっとノーベル平和賞をもらえるに違いないと、トランプが渇望しても不思議ではないだろう。トランプにはビジネスマンとしての業績があり、あと欲しいのは名誉だけのようなものだったのだから。
実際、安倍元首相に頼んでノーベル平和賞候補にノミネートしてもらい、それを自慢気にばらしてしまったことから見ても、トランプがいかに受賞を渇望していたかは想像に難くない。
その証拠に、大統領選挙演説のときからトランプは「金正恩とハンバーガーを食べながらお喋りしてもいい」という主旨のことを何度か言っていた(参照:2017年5月3日のコラム<トランプは金正恩とハンバーガーを食べるのか?>)。
今ではもう音信が途絶えてしまった中国共産党の老党員は、そのころ筆者にしきりに「トランプがノーベル平和賞を欲しがっていることに中国は注目している」と知らせてくれたし、「もっとも、北朝鮮問題が解決してしまうと、アメリカの軍産複合体が武器弾薬を生産する口実が無くなるので困るだろうが...」と笑ってもいた。たしかに、金正恩とハンバーガーを食べながらお喋りをする機会はなくなってしまったが、しかしアメリカには長年抱えてきたアフガン問題がある。