イーロン・マスクのスペースX、宇宙で毎週1600件のニアミス事故
将来は近接の大半にスペースXが関与か
近い将来、問題はさらに悪化する公算が高い。スペースXは第1世代として1万2000基、第2世代も含めると約3万基によるネットワークを想定しており、現時点での数はその6%に過ぎない。事態を報じる英デイリー・メール紙は、第1世代の配備が完了すれば、近接インシデントの9割がスペースX関連となるとの試算を報じている。
宇宙開発の進展に伴い、宇宙ごみはすでに深刻な問題となっている。アメリカの宇宙監視ネットワークはレーダーと光学によって軌道上の衛星とデブリを追跡しているが、監視対象は10センチ角以上の物体だけで3万個に及ぶ。小規模なものも含めると、50万個のデブリが現在地球を周回している。
あまりの数に、専門企業による追跡も限界に達しつつある。宇宙空間の交通管制サービスを提供する米ケイハーン・スペース社のシーマック・ヘザーCEOは、米宇宙情報サイトの『Space.com』に対し、「この問題はまさに制御不能の域に達しつつあります」と懸念を示している。
Space Debris-ESA
過去には深刻な事故も
ひとたび衛星の衝突事故が起きれば大量の宇宙ごみを撒き散らし、他の衛星に深刻なダメージを与えかねない。広大な宇宙空間での衝突はあり得ないようにさえ思えるが、大規模な事故は実際に起きている。
2009年には米イリジウム・コミュニケーションズ社のコンステレーション衛星とロシアの軍事衛星が衝突し、史上最悪のインシデントとしてのちに知られることとなった。高度約800キロで衝突した2基は大きな破片だけで1000個以上を撒き散らし、その後も同エリアを通過する他の衛星に損傷を与えている。これとは別に、今年3月には中国の雲海1号02星が突如崩壊したが、原因はスペースデブリとの衝突であったことが今月に入って判明している。
スペースXとしても予防策に無関心なわけではない。同社はスターリンク衛星の電源と推進システムを多重化し、安全性を確保していると説明している。緊急時にはスターリンク側での回避操作も可能であろう。
しかし、ケイハーン社のヘザーCEOは、一般的に回避操作は衛星の貴重な推進剤を消費することから、頻繁に行うことはできないと指摘する。衛星の位置測量システムには誤差があるため、衝突の警告はある程度の余裕をもって発せられる。オペレーターは衝突の危険度と人的リソースの状況、そして推進剤の消費を天秤にかけ、実際には回避操作を行わないという判断を下すことも多々ある。
格安かつ高速ネット環境を標榜するスターリンクだが、大量の衛星投入によって事故のリスクは着実に増大している。その代償は将来、同社にとって想定外に高くつくかもしれない。