最新記事

テクノロジー

テスラvsトヨタ、豊田社長肝いりの燃料電池車は失敗だったのか

2021年8月20日(金)11時30分
竹内一正(作家、コンサルタント)
トヨタの燃料電池車「MIRAI」

トヨタの燃料電池車「MIRAI」の価格は約700万円と庶民には手が届かない Andrew Cullen-REUTERS

<米テスラが火をつけたEV(電気自動車)シフトが欧米で進む一方、トヨタはハイブリッド車(HV)、プラグインハイブリッド車(PHV)、燃料電池車(FCV)にEVを加えた全方位戦略で受けて立とうとしている。果たしてトヨタに勝機があるのか。『TechnoKING イーロン・マスク 奇跡を呼び込む光速経営』の著者、竹内一正氏がトヨタとテスラの戦略を比較し、トヨタの燃料電池車「MIRAI」のこれからを予想する>

燃料電池車MIRAIは失敗だった

2015年の北米モーターショーで、テスラのCEOイーロン・マスクはトヨタの燃料電池車(FCV)のフューエル・セルをもじって、「馬鹿げた(フール)・セルだ」と酷評した。

それから6年たった今、果たしてトヨタのFCVは「馬鹿げたセル」なのか?

残念ながら、2020年のトヨタFCVの世界販売台数はたったの2000台に過ぎない。

なるほどCO2は出さないが、約700万円の価格はクルマにしてはいかんせん高すぎた。

2014年に発売を開始したFCVの「ミライ」の価格は約700万円だった。そして、航続距離など性能を向上させてはいるものの現時点でも価格は約700万円で、大衆には手が届かないままだ。だからミライは売れない。ミライはいつまでたっても"未来"のままで、"現在"になっていない。

ドイツのメルセデスベンツは高級車で収益を上げてきた企業だが、トヨタは違う。カローラに代表される"大衆車"でトヨタは現在の地位を築いた。

ならば、FCVを300万円台までに下げる力がないとトヨタのFCVに未来はない。

しかも、設置コストが高い水素ステーションという悩みの種も残っている。

イーロン・マスクはまだテスラの経営基盤がぜい弱だった2013年に、モデルS用の高速充電ステーション「スーパーチャージャー・ネットワーク」の全米展開を開始した。

その時、大多数の専門家たちは「無茶だ」とか「そんなことをしたら、テスラは倒産する」と批判のオンパレードを繰り広げたが、スーパーチャージャー・ネットワークはテスラ車の販売の加速剤となっていった。

一方、潤沢な資金力を持つトヨタは、なぜ水素ステーションを自腹で設置することをしないで、他社任せだったのか。本気でFCVを普及させたいなら、水素ステーションもトヨタが作っていくべきだった。FVCへの本気度の熱量が不足していると感じざるを得ない。

現時点で判断すれば、トヨタのFCVは失敗作だ。そして、トヨタはFCVの呪縛に囚われているように見える。

トヨタは世界中でEV化に反対していた

今年7月に米ニューヨーク・タイムズは「トヨタは、世界中で電気自動車(EV)の推進に反対している」というショッキングな記事を報じた。

同紙によると、北米トヨタの上級幹部は米国議会スタッフとの会合で、EVへの積極的な全面移行に反対する姿勢を明らかにしたという。

トヨタにとって、市場がEVに急速にシフトすると、同社の市場シェアと収益に壊滅的なダメージを与える可能性があるというわけだ。

なにもトヨタのEV潰しは今回だけでなく、じつはEUやオーストラリア、メキシコなど世界各地でやっていた。

ハイブリッド車プリウスを出し、環境に優しいクルマと企業イメージを築いたトヨタだったはずが、EV化の急流を前にして、足がすくんだかのように反EVの行動をしていた。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米インフレ、目標上回る水準で停滞も FRB当局者が

ビジネス

再送-米マイクロソフトがXbox開発スタジオを一部

ビジネス

介入の有無、予見を与えるため発言控える=鈴木財務相

ワールド

バイデン氏、大学卒業式の平和的抗議を歓迎
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:岸田のホンネ
特集:岸田のホンネ
2024年5月14日号(5/ 8発売)

金正恩会談、台湾有事、円安・インフレの出口......岸田首相がニューズウィーク単独取材で語った「次の日本」

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 2

    「自然は残酷だ...」動物園でクマがカモの親子を捕食...止めようと叫ぶ子どもたち

  • 3

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 4

    「真の脅威」は中国の大きすぎる「その野心」

  • 5

    デモを強制排除した米名門コロンビア大学の無分別...…

  • 6

    いま買うべきは日本株か、アメリカ株か? 4つの「グ…

  • 7

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 8

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが......…

  • 9

    中国軍機がオーストラリア軍ヘリを妨害 豪国防相「…

  • 10

    翼が生えた「天使」のような形に、トゲだらけの体表.…

  • 1

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 2

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 3

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロシア空軍基地の被害規模

  • 4

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミ…

  • 5

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 6

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 7

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 8

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 9

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 10

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが......…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

  • 10

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中