最新記事

タリバン

タリバンの本質は20年前のまま、国際社会に受け入れられる努力は実るか

The Two Talibans

2021年8月25日(水)12時46分
アンチャル・ボーラ(ジャーナリスト、在レバノン)
タリバン代表団

カタールでアフガン政府との停戦協議に臨むアブドゥル・サラム・ハナフィー(右端)らタリバン代表団(8月12日) HUSSEIN SAYEDーREUTERS

<米軍撤退に乗じて全土を掌握したタリバンだが、柔軟姿勢の指導部と凶暴な戦闘員はどっちが本物?>

略奪や処刑を伝える話が国中から聞こえてくる。首都カブール在住の市民は海外にいる友人知人に電子メールを送り、タリバンの戦闘員が住宅に押し入って女性のジャーナリストや医師を連行する様子を伝えている。

だが電光石火でアフガニスタン全土を制圧して以来、タリバン指導部はまさに真逆のメッセージを世界に発信している。現場の戦闘員には乱暴を慎めと命じ、国民に向けては自分たちの「善意」を信じろと呼び掛けている。

前政権で働いていた人全員に恩赦を与えるとも言った。女性を含めて公務員やジャーナリストには職場復帰を促した。少数民族(や異教徒)にも手を差し伸べ、彼らの不安を和らげようとしている。

タリバン幹部の多くは外国生活が長く、自分たちは昔と違う穏健派だというイメージを打ち出し、正当な指導者として国民からも国際社会からも認められることを強く望んでいる。

しかし現場の戦闘員が同じ思いだという保証はない。組織内に生じた亀裂がどう修復されるのか、そして最終的に勝つのはどちらか。今はまだ分からない。

カブールを制圧した翌日、タリバンの広報官ザビフラ・ムジャヒドは市内で長時間の会見を行い、タリバンは報復を求めておらず、過去に敵対した者を処刑することもないと言明した。女性の権利もイスラム法(シャリーア)の枠内で守り、融和的な政府を樹立し、外国大使館は24時間体制で保護するとも約束した。

戦闘員は「選挙など許さない」

だが国民の多くやタリバンをよく知る専門家は、口先だけのポーズと見なしている。現にムジャヒドはメディアにイスラム法の遵守を求めているし、女性の職種を限定するような発言もした。

そもそも政治指導部が、現場の戦闘員に望まれぬ譲歩をするとは考えにくい。既に戦闘員がデモ参加者に発砲したとか、街頭に貼り出された女性の広告を塗りつぶしているなどの報告がある。

南部の主要都市カンダハルにいるタリバン戦闘員の一人は匿名を条件に筆者の取材に応じ、タリバンは選挙などは許さないと言った。

「選挙は無駄だ。この20年に何度も選挙があったが、何もできていない。われらはわが道を行くのみだ」

ただしカタールの首都ドーハにいるタリバンの公式報道官スハイル・シャヒーンの見解は異なる。選挙の実施を含め、「協議の場に持ち出されるどんな提案も排除しない」と主張している。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ減税抜きの予算決議案、米上院が未明に可決

ビジネス

ユーロ圏総合PMI、2月50.2で変わらず 需要低

ビジネス

英企業、人件費増にらみ雇用削減加速 輸出受注1年ぶ

ビジネス

上海汽車とファーウェイが提携、「国際競争力のある」
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 4
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 5
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 6
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 7
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 8
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 9
    ハマス奇襲以来でイスラエルの最も悲痛な日── 拉致さ…
  • 10
    ロシアは既に窮地にある...西側がなぜか「見て見ぬふ…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ...犠牲者急増で、増援部隊が到着予定と発言
  • 3
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 4
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    墜落して爆発、巨大な炎と黒煙が立ち上る衝撃シーン.…
  • 8
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 9
    週に75分の「早歩き」で寿命は2年延びる...スーパー…
  • 10
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 5
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 6
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 7
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 10
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中