圧倒的に保守的な土地で、「多様性」を前面に掲げて大成功した美術館
A Soldier in Culture Wars
そのときクリスタルブリッジズ美術館の経営陣が、自分たちが思っているほど「誰にでも開かれている」わけではないと悟ったかどうかは分からない。それでも彼らの心に響いたことは間違いない。
クリスタルブリッジズのスタッフに聞いた16年の調査で、自分は「ダイバーシティ(多様性)」を示すグループに属していると答えた人はわずか11%だった(最新の数字は28%)。「データを見て、私たちの進むべき道が明確になった」と、ウォルトンは言う。「本気で自分たちの使命を全うするつもりなら、改良するべき点があると気が付いた」
多様性の追求を戦略化
理事会は、自分たちとスタッフ、さらにはコレクションを見直すことを決めた。ビゲローの肩書に「最高ダイバーシティ&インクルージョン責任者」が加わったのもこのときだ。「理事会は多様化を実践すると誓い、反人種差別を掲げる組織になることを、戦略的な優先事項にした」
変化は数字に表れている。現代アートのセクションは現在、有色人種のアーティストの作品が48%、女性の作品が53%を占める。作品の取得に関しては、クリスタルブリッジズが「人種的/民族的に」多様だと分類する作品は、15年の18%から20年は71%に増えている。
美術館を訪れる人々の目にも、展示の変化は明らかだ。第2次大戦中に工場で働く女性を描いたノーマン・ロックウェルの『ロージー・ザ・リベッター』など、オーステン・バロン・ベイリー主任学芸員の言う「グレイテスト・ヒッツ」のほか、風景を数多く描いたエドワード・ホッパーなどが展示されている。
その一方で、白人男性アーティストの有名作と一線を画すものも展示されている。
初期アメリカ美術ギャラリーを訪れた人がまず目にするのが、合衆国憲法前文の冒頭の言葉を題名とするナリ・ウォードの巨大なインスタレーション『ウィー・ザ・ピープル(われら国民)』だ。
合衆国憲法の前文に「切り取られた指針や熱望」は「基本的に白人男性のみに平等と権利を保障し、多くの者を排除した」と、この作品の解説は指摘している。「私たちは極めて意識的に言葉や解釈的アプローチを用い、幻想を打破することをためらわない」と、バロン・ベイリーは語る。
例えば、昨年開催した写真家アンセル・アダムズの展覧会だ。代表作である国立公園の記録写真について「国立公園への誇りを生むことには貢献したが、全てのアメリカ人がこれらの屋外空間で歓迎されていると感じてはいない」と、解説パネルにはあった。
クリスタルブリッジズのスタッフは収蔵作品だけでなく、組織としての公的発言にも多くの裁量権を持つ。BLMへの支持表明は「理事会の賛同の下」で、スタッフと経営陣が共同で主導したと、広報担当のベス・ボビットは言う。
スタッフの裁量権の拡大を示す例はほかにもある。