圧倒的に保守的な土地で、「多様性」を前面に掲げて大成功した美術館
A Soldier in Culture Wars
アリソン・グレン現代美術担当准学芸員は最近、ケンタッキー州ルイビルのスピード美術館で開催された『約束、証言、記憶』展の客員キュレーターを務めた。ルイビルで昨年3月、警察官に射殺された黒人女性ブリオナ・テイラーをテーマにした展覧会だ。
クリスタルブリッジズでの仕事ではなかったが、同展に参加することに疑問はなかったと、グレンは話す。「個人的に、どうしてもやらなければならないことだった」
保守派から反発を受けることはないのだろうか。
皆無ではないものの、非難の嵐が押し寄せているわけでもない。最も辛辣な発言をしたのはおそらく、保守系雑誌ナショナル・レビューの美術評論担当で同館のファンを公言するブライアン・T・アレンだ。「クリスタルブリッジズは説教くさい解説パネルを捨てて作品自体に語らせ、鑑賞者自身に解釈を任せるべきだ」と、アレンは述べている。
作品が語ることや同館の掲げる主張を耳障りと感じる向きも、地元にはある。
中止になった校外学習
その一例が、19年に開催した『メン・オブ・スティール、ウィメン・オブ・ワンダー』展だ。人種、移民、性差別、といった「現代生活の多くの問題を掘り下げる」コミック作品の芸術性に着目した同展では、情熱的なキスをするバットマンとスーパーマンを描いたリッチ・シモンズの絵画などを展示した。
地元のある学区がシモンズの作品の詳細を知り、クリスタルブリッジズを訪れる「校外学習がキャンセルされた」と、ボビットは言う。「同作の鑑賞は見学ツアーに含まれていなかったが、それでも一部の保護者が動揺した」
同館のフェイスブックページにあるコメントは、大半が好意的なものだ。とはいえ、社会正義を求める姿勢を問題視する人々もいる。
毎年6月のゲイプライド月間を記念して、性的少数者のアーティストの作品を特集する企画を発表した際には、「性的少数者を支持するなら、必ず訪れたい場所リストから削除する」との書き込みがあった。BLMへの支持表明に対しては「BLMのような左派グループやメディアが、組織的人種差別が存在するとの思い込みをつくる」というコメントが寄せられた。
それでも、開館当初の目標が達成されているのは確かだ。多様性のある作品を収蔵し、あらゆる人に扉を開き、社会正義をめぐる重大問題について声を上げる世界有数の美術館──そのとおりの存在になった同館を訪れる人は増え続けている。コロナ禍以前の19年の入館者数は70万2000人を記録した。
もはや疑問の余地はない。クリスタルブリッジズと創立者のウォルトンはアート界のメジャーリーグで、素晴らしい活躍を見せている。
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