圧倒的に保守的な土地で、「多様性」を前面に掲げて大成功した美術館
A Soldier in Culture Wars
性的少数者をサポートする主張も行っている。
アーカンソー州で4月、性同一性障害の子供が思春期を迎えたときにホルモン剤など第2次性徴を抑える薬を処方することを禁止する州法が成立したことには賛意を示し、「私たちは、全ての性的少数者がコミュニティーの一員として大切にされ、尊重されるよう支援する」との声明を発表した。
クリスタルブリッジズ美術館のエグゼクティブディレクターを務めるロッド・ビゲローは、もっと早くこうした声明を出すべきだったと語る。それでも、美術館が地元の問題について明確な姿勢を示すいい前例になったという。
右傾化を強める共和党の地盤で、美術館と社会正義を求める活動はどのようにして結び付いたのだろうか。
「この美術館は、全ての人を歓迎するという使命のもとに設立された。開館した日からその使命に導かれている」と、ウォルトンは言う。
筆者は1980年代にウォール・ストリート・ジャーナル紙の記者として、初期のウォルマートを取材した。アメリカの田舎の絵に描いたようなダウンタウンを破壊したと、非難され始める前のことだ。
その後、ベントンビルは大きく変わった。アーカンソー州北西部を訪れた最初の数回は、モーテルに泊まったこともあった。枕元のテーブルには聖書と、竜巻に関する注意書きが置かれていた。
今年の5月は現代的なホテルに泊まった。洗練されたダウンタウンには流行のレストランやショップが並ぶ。ただし、変わっていないものもある。
民主党を支持するなら注意が必要な土地
あなたが少しでも民主党に共感を覚えるなら、ベントンビルでは慎重に行動したほうがよさそうだ。南部の多くの地域では、大学フットボールより深刻な話題を口にするときには深呼吸しよう。アーカンソーは昨年の大統領選で、ドナルド・トランプがジョー・バイデンに30ポイント近い差をつけた州だ。
英ガーディアン紙によると、ベントンビルのある中学校は卒業アルバムに掲載した写真の説明で、BLMのデモ参加者を「暴徒」と呼び、「トランプ大統領は弾劾されなかった」と書かれている。
来年の州知事選には、トランプの大統領報道官を務めたサラ・サンダースが出馬を表明している。そして州旗には、アーカンソーが南北戦争で北部に敗れた南部の「アメリカ連合国」の一員だったことを示すデザインがされている。
そうした土地柄にもかかわらず、リベラリズムやウォークの意識が進化したのはなぜなのか。
その原動力の1つは、全ての来館者にとって安全な場所にするというウォルトンの設立当初の思いだと、クリスタルブリッジズ美術館の人々は語る。黒人、白人、ゲイ、ストレート、アジア人、ヒスパニック......全ての人に。
しかし開館から4年後、アートの世界全体に警鐘が鳴らされた。15年にアンドルー・メロン財団と米美術館長協会が、アメリカの美術館のスタッフは非ヒスパニック系の白人が70%以上を占めるという調査結果を発表したのだ。美術館は圧倒的に白人の世界だった。