最新記事
アフガニスタン

タリバン政権復活、バイデンが検討すべきだった1つのこと

No One’s Surprise

2021年8月16日(月)16時10分
フレッド・カプラン(スレート誌コラムニスト)
アフガニスタン政府軍特殊部隊

市場を通過してタリバンとの戦闘に向かうアフガニスタン政府軍特殊部隊(カンダハル州、7月12日) DANISH SIDDIQUIーREUTERS

<米軍が20年かけて育てたはずのアフガニスタン政府軍は敗走し、タリバンが瞬く間に支配地域を拡大した。米軍完全撤収の理由としてバイデンが説明したことはどれも正しいが、オバマ政権はやったのにバイデンがやらなかったことがある>

アフガニスタンで、反政府勢力タリバンが着々と各地を制圧している。唯一の驚きは、この展開に驚く人がいることだろう。米軍とNATO(北大西洋条約機構)軍が完全撤収すると発表して以来、こうなることは目に見えていた。

それでも、啞然としている人は多い。アフガニスタン政府軍は、米軍などから20年にもわたり武器を供給され、訓練を受けてきた。自力でタリバンの進攻を食い止めるか、少なくともそのスピードを落とせるはずではないか──。

だが、タリバンは瞬く間に支配地域を拡大しており、首都カブールが陥落するのも時間の問題となっている。6月後半にタリバンの攻撃が始まったとき、アメリカの諜報関係者は、半年~1年でアフガニスタン全土が掌握されると懸念を示したが、今は1カ月半と言っている。それさえも楽観的な見方かもしれない(編集部注:8月15日、タリバンはカブールに進攻し、大統領府を占拠。勝利宣言を発した)。

問題は、政府軍ではない。多くの兵士は勇敢に戦っている。だが、米軍の完全撤収は、彼らが秩序正しく戦うことを不可能にした。

米兵が姿を消しただけではない。空からの援護や、物資供給、情報と偵察、兵器や車両の保守整備、負傷者の後方への搬送、そしてヘリコプターによる迅速な輸送活動もなくなったのだ。

こうした支援なしでは、米軍の地上部隊はまともに戦うことができないと、米軍高官から聞いたことがある。米軍がそうなら、アフガニスタン政府軍はもっとそうだろう。

もちろんタリバンにもこの種の後方支援はない。だが、反政府勢力にとって、こうした支援の必要性はさほど高くない。なにしろ彼らは、自分たちに都合のいいタイミングに、自分たちが選んだ場所で攻撃を仕掛けられるのだ。

これに対して、アフガニスタン軍に限らず政府軍は、いつどこが攻撃されても、それを迎え撃たなくてはならない。これは難しい任務であり、情報ネットワークと空からの援護、ヘリコプター輸送などの統合的支援がなければ、ほとんど不可能だ。

タリバンは、反政府勢力ならではのアドバンテージを利用して、ほぼ難なく地方を攻略し(そして仲間を増やし)、今や首都に迫っている。これに対して政府軍は、各地での大敗の知らせを聞いて孤立無援を知り、士気が低下している。脱走したり、タリバン側に寝返る兵士もいるかもしれない。

米軍の撤収後、政府軍の車両や米軍から供給された武器を、タリバンが入手して見せびらかしている映像もある。アメリカが供給した武器をタリバンが奪う行為は、この20年間ずっと続いてきたことでもあるが......。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

EU加盟国、トランプ次期米政権が新関税発動なら協調

ビジネス

経済対策、事業規模39兆円程度 補正予算の一般会計

ワールド

メキシコ大統領、強制送還移民受け入れの用意 トラン

ビジネス

Temuの中国PDD、第3四半期は売上高と利益が予
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 2
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 3
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 4
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 5
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 6
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 7
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 8
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 9
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 10
    ウクライナ軍、ロシア領内の兵器庫攻撃に「ATACMSを…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 4
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 7
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 8
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 9
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 10
    メーガン妃が「輝きを失った瞬間」が話題に...その時…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 9
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 10
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中